3.2.3.質点系への拡張
前項では1つの質点に対する仮想仕事の原理の適用を見てきました。
これを拡張し、複数の質点からなる質点系に仮想仕事の原理を適用してみます。
n個の質点で構成される系の座標は、3n個の独立変数(x
1,x
2,x
3,…,x
3n)で表せます。
この系が平衡状態にあるとき、仮想仕事の原理を適用すれば、次のようになります。
\[
\sum_{i=1}^n F_i \delta x_i
=
0
\tag{3.2.3-1}
\]
次に、束縛条件の個数について考えます。
この系にもし3n個以上の束縛条件があるとしたら、どんな力を与えても系は束縛条件上のあらゆる点で平衡状態を保ったまま、つまり“解なし”になります。
よってこの場合、束縛条件の個数は
“1≦k<3n”でなければなりません。
そこで、束縛条件を次の関数で定義します。
\[
f(x_1, \cdots, x_k)
=
0
\\
( i = 1, 2, \cdots, k( \lt 3n ))
\tag{3.2.3-2}
\]
仮想変位は、これらの束縛条件をすべて満足するので、(3.2.1-6)式同様にすれば、
\[
\sum_{j=1}^k \frac{\partial f_i}{\partial x_j} \delta x_j
=
0
\tag{3.2.3-3}
\]
ここでもラグランジュの未定乗数法を適用すると、
\[
\sum_{j=1}^{3n} \left(
F_i + \sum_{i=1}^k \lambda_i \frac{\partial f_i}{\partial x_j}
\right) \delta x_i
=
0
\tag{3.2.3-4}
\]
となり、「独立でないδx
iを消去する」意味を持ったλ
iと、残りの恒等的関係から、次の連立方程式が得られることなになります。
\[
F_i + \sum_{i=1}^k \lambda_i \frac{\partial f_i}{\partial x_j}
=
0
\\
( i = 1, 2, \cdots, k( \lt 3n ))
\tag{3.2.3-5}
\]
(3.2.3-2)式と(3.2.3-5)式を解くことによって解が求められることになります。
3.3.ダランベールの原理
ダランベールの原理とは、慣性力の考え方を仮想仕事の原理に適用したものです。
つまり、「加速度運動している質点がある時刻tその瞬間、慣性力を含めたつり合い条件にある」と考え、仮想仕事の原理を適用するものです。
この方法により、質点の運動方程式を簡単に導出できるようになります。
ここでは、曲面上に束縛された質点の運動方程式の記述について見ていきます。
ある時刻tでの質点を束縛する曲面を次式とします。
\[
f(x, y, z)
=
0
\tag{3.3-1}
\]
次に、垂直抗力
R以外の質点に働く合力
Fと慣性力-m
aの合計に仮想仕事の原理(3.2.1-4)式を適用すると、以下のようになります。
\[
(F_x - m \ddot{x}) \delta x
+ (F_x - m \ddot{y}) \delta y
+ (F_x - m \ddot{z}) \delta z
=
0
\tag{3.3-2}
\]
曲面の条件として(3.2.1-6)式を持ち出し、ラグランジュの未定乗数法を適用すれば、(3.2.1-7)式を書き換えた次の関係式が成り立ちます。
\[
\begin{eqnarray}
\left( F_x - m \ddot{x} + \lambda \frac{\partial f}{\partial x} \right) \delta x
& + & \left( F_y - m \ddot{y} + \lambda \frac{\partial f}{\partial y} \right) \delta y
\\
\\
& + & \left( F_z - m \ddot{z} + \lambda \frac{\partial f}{\partial z} \right) \delta x
=
0
\end{eqnarray}
\tag{3.3-2}
\]
λはδzを消去する関数、δx、δyは任意変数ゆえの恒等式から、(3.2.1-11)式と同形の以下の3式が得られます。
\[
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
m \ddot{x}
=
F_x + \lambda \displaystyle \frac{\partial f}{\partial x}
\\
\\
m \ddot{y}
=
F_y + \lambda \displaystyle \frac{\partial f}{\partial y}
\\
\\
m \ddot{z}
=
F_z + \lambda \displaystyle \frac{\partial f}{\partial z}
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
\tag{3.3-4}
\]
この式はまさに、ニュートン力学でいう運動方程式にあたります。
ところで、上式は“ある時刻tその瞬間”つまり時間を固定して導き出した数式です。
すると、次の瞬間t+⊿tでこの式は成り立つか?が疑問となります。
ある時刻tを固定したときの曲面関数として(3.3-1)式を設定していますが、それを
\[
f(x, y, z, t)
=
0
\tag{3.3-5}
\]
として表わせば、時刻t+⊿tでの曲面関数は
\[
f(x, y, z, t+ \delta t)
=
0
\tag{3.3-5}
\]
となります。そこで、時刻t+⊿tを固定して上記内容を適用すれば結局(3.3-4)式が導出されます。
仮想仕事の原理は、機構解析を行う上でなくてはならない概念です。
様々な機構解析ソフトでこの概念が導入されていますので、ぜひ押さえておきたいところです。
簡単な解説書として次の参考書を紹介しておきます。
わかりやすい説明と例題もあって、手ごろな参考書と言えると思います。