2.ラグランジアン
2.1.自由な質点のラグランジアン
自由な質点のラグランジアンは、任意の慣性系において同形
(
1.5節によりL(v
2))でなければなりません。
そこでまずは、2つの慣性系を比較することによって得られる関係性に着目してみます。
ある慣性系Kと、それに対して任意の微小等速度δ
uで運動する別の慣性系K’を設定します。
このとき、Kからみた質点の速度
vと、K’からみた速度
v’の間には次の関係があります
(ガリレイの相対性原理)。
\[
\bf{v'}
=
\bf{v} + \delta \bf{ u }
\tag{2.1-1}
\]
そこで、K’における\( L'(v^2) \)とKにおける\( L(v^2) \)の差をとると、
\[
L'(v^2) - L(v^2)
\simeq
\frac{\partial L(v^2)}{\partial v^2} \ (2 \bf{v} \cdot \delta \bf{u})
\tag{2.1-2}
\]
2つのラグランジアンの間には、任意関数f(q,t)の時間の完全導関数の不定性
(
1.4節(2))があるため、上式右辺も時間についての完全導関数でなければなりません。
\[
\frac{d}{dt}f(q,t)
=
\frac{\partial L(v^2)}{\partial v^2} \ (2 \bf{v} \cdot \delta \bf{u})
\tag{2.1-3}
\]
左辺は座標qをtで微分するため速度の一次関数になるため、右辺も速度の一次関数でなければなりません。
この条件を満たすには、速度の内積の項があるため、ラグランジアンンの偏微分が定数でなければならず、結果、自由な質点のラグランジアンは、速度の二乗に比例する関数となります。
\[
\begin{eqnarray}
& &
\frac{\partial L(v^2)}{\partial v^2}
=
a \ (const)
\\
\\
& \rightarrow \ &
L(v^2)
=
a v^2
\end{eqnarray}
\tag{2.1-4}
\]
ところで、ニュートン力学において速度の二乗が意味するものは運動エネルギーであり、(2.1-4)式と比較すると、
\[
T = \frac{1}{2}mv^2
\ \leftrightarrow \
L = av^2
\tag{2.1-5}
\]
aは任意定数であることから、m/2と置いても差し支えありません。
つまり、自由な質点のラグランジアンLは運動エネルギーTに等しい、つまり“Lはエネルギーの次元を持つ”ことになります。
\[
T = L = \frac{1}{2}mv^2
\tag{2.1-6}
\]
これをラグランジュ方程式(1.3-6)式に代入すると、
\[
\frac{d}{dt} \left( \frac{\partial T}{\partial \dot{q_i}} \right) - \frac{\partial T}{\partial q_i}
=
\frac{d}{dt} \left( \frac{\partial}{\partial \dot{q_i}} \left( \frac{1}{2}mv^2 \right) \right)
=
m \frac{d v_i}{dt}
\]
\[
m \frac{d v_i}{dt}
=
0
\tag{2.1-7}
\]
となり、外力の作用がない質点の運動方程式そのものを意味します。
つまり、ラグランジュ方程式は、ニュートン力学における運動方程式そのものである、ということがわかります。
また
1.3節に従い、多自由度への拡張が即座に可能です。
\[
L
=
\sum_{i=1}^s T_j
=
\sum_{i=1}^s \frac{1}{2}m_i v_i^2
\tag{2.1-8}
\]
さらに、慣性系から見た質点系の運動エネルギー(結局はラグランジアン)(2.1-6)式は、座標変換に伴い次のように書き換えられます。
\[
\begin{eqnarray}
T
& = &
\frac{1}{2} \sum_{i=1}^s m_i x_i^2
\\
\\
& = &
\frac{1}{2} \sum_{i=1}^s m_i \left( \sum_{j=1}^s \frac{\partial x_i}{\partial q_j} \dot{q_j} \right)^2
\\
\\
& = &
\frac{1}{2} \sum_{i=1}^s \left(
\frac{\partial x_i}{\partial q_1} \dot{q_1} + \cdots + \frac{\partial x_i}{\partial q_s} \dot{q_s}
\right)^2
\\
\\
& = &
\frac{1}{2} \sum_{i=1}^s \sum_{j=1}^s m_i \frac{\partial x_i}{\partial q_i} \frac{\partial x_i}{\partial q_j} \dot{q_i} \dot{q_j}
\end{eqnarray}
\tag{2.1-9}
\]
このとき、座標の偏微分については座標のみの関数になります。
よって、一般座標における運動エネルギーは、速さに関する二次形式であるとともに、座標にも依存する関数となっています。
\[
T(\dot{x_1}, \cdots, \dot{x_s})=T(q_1, \cdots, q_s, \dot{q_1}, \cdots, \dot{q_s})
\tag{2.1-10}
\]
2.2.相互作用のあるラグランジアン
2.2.1.ポテンシャル
ポテンシャルとは、座標と時刻に依存するスカラー関数U(
r,t)の、座標に関する導関数が力になるものです。
\[
\bf{F}
=
- \nabla U( \bf{r}, t)
\tag{2.2.1-1}
\]
(\( \nabla \)はgradとも表す)
一般にポテンシャルは“物体の相互作用に起因するもの”で、万有引力(重力)などが相当します。
物体は質点の集合体とみなせるため、物体の相互作用は各質点の相互作用ともいうことができます。
よってポテンシャルは、物体を構成する各質点の位置ベクトル
ri(座標q
i)と時刻tを用いて次のようにも表現できます。
\[
\bf{F_j}
=
- \frac{\partial U(\bf{r_1}, \cdots, \bf{r_n}, t)}{\partial \bf{r_j}}
\tag{2.2.1-2}
\]
さらに、ポテンシャルが作用する空間において、一方の物体は、もう一方の物体によって生じた相互作用の力が広がる空間中(場)にある、と考えることができます。
このように座標に依存して力が作用する場を
力場といい、さらにそれがポテンシャルによる力場の場合を
ポテンシャル場といいます。
さて、ポテンシャルには定数の不定性があることを導き出します。
同じ力ベクトルを出力する別々のポテンシャルを次のように定義します。
\[
\nabla U (\bf{r'}, t)
=
\nabla U (\bf{r}, t)
\ \rightarrow \
\nabla ( U (\bf{r'}, t) - U (\bf{r}, t) )
=
0
\tag{2.2.1-3}
\]
ここから、二つのポテンシャル差が定数となることがわかります。
\[
U (\bf{r'}, t) - U (\bf{r}, t)
=
const
\tag{2.2.1-4}
\]
このポテンシャルの定数の不定性は、基準となるポテンシャルの任意性を意味します。
2.2.2.系内の相互作用
質点系内において質点間相互作用はあるが、他の系との相互作用はない場合を考えます。
このような系を
孤立系と呼びます。また、系の運動は慣性系で見るものとします。
質点系のラグランジアンLは
2.1節の通り、運動エネルギーTを含みます。
今回はさらに、質点間の相互作用があるあため、その影響をLに取り込む必要があります。
質点間相互作用は、前節で見たとおり質点の位置のみによって定まるため、位置のみの関数WをLに加えます
(一般に物理量は加法的なため、だめなら別な方法を模索することになります)。
\[
L
=
\sum_j T_j + W(\bf{r_1}, \cdots, \bf{r_n} )
\tag{2.2.2-1}
\]
これを(2.1-8)式を考慮に入れ、ラグランジュ方程式(1.3-6)式に代入すると、
\[
\frac{d}{dt} \left( \frac{\partial}{\partial \bf{v_j}} \sum_j T_j \right)
- \frac{\partial W}{\partial \bf{r_j}}
=
0
\ \rightarrow \
m_j \frac{d \bf{v_j}}{dt}
=
\frac{\partial W}{\partial \bf{r_j}}
\tag{2.2.2-2}
\]
これは、ニュートン力学の運動方程式とまったく同じものです。
つまり、右辺のWの座標に関する導関数は力であることがわかります。
ところで前節により、このWの座標に関する導関数がポテンシャルの定義に一致することから、
\[
m_j \frac{d \bf{v_j}}{dt}
=
- \frac{\partial U}{\partial \bf{r_j}}
\tag{2.2.2-3}
\]
となることがわかります。
よって、慣性系から見た孤立系のラグランジアンは以下で表せることがわかりました。
\[
L(q, \dot{q})
=
T(\dot{q}) - U(q)
\tag{2.2.2-4}
\]
なお、Uは座標のみの関数であるため、
1.1節の座標変換においてその形は不変です。
よって、一般座標における孤立系のラグランジアンは、以下になります。
\[
L(q, \dot{q})
=
T(q, \dot{q}) - U(q)
\tag{2.2.2-5}
\]
なお、ラグランジアンが運動エネルギーTとポテンシャルエネルギーUの差になっている理由については、
こちらの書籍にわかりやすい解説が載っていますので、参考にしてみてください。
2.2.3.系外の相互作用
2つの質点系A、B間に相互作用が働いている場合を考えます。
このとき
2.1節でみたように、
系Aは系Bによって作られた力場の中で運動している、と見ることができます。
本節では、このときの系AのラグランジアンLを求めることが目的です。
全体系A+Bは孤立系と見れます。そこで、慣性系から見たこの全体系のラグランジアンをLとおくと、
\[
L
=
T_A(\dot{q_A}) + T_B(\dot{q_B}) - U(q_A, q_B)
\tag{2.2.3-1}
\]
今、系Bは場を与えるものとして扱っているため、座標q
Bの特性、つまり時間の関数は既知として扱えるはずです。
よって、系Bの速度も既知となります。
以上から、(2.2.3-1)式は時間を陽に含む関数として書き換えることができます。
\[
L
=
T_A(\dot{q_A}) + T_B(t) - U(q_A, t)
\tag{2.2.3-2}
\]
ここで、系Bの運動エネルギーの項は、時間の関数の完全導関数
\[
T_B(t)
=
\frac{d}{dt} \int T_B(t) dt
=
\frac{d f(t)}{dt}
\tag{2.2.3-3}
\]
とできるので、任意関数f(q,t)の時間に関する完全導関数の不定性(
1.4節(2))に従い省略できます。
よって、系外相互作用のある系のラグランジアンは、
\[
L
=
T_A(\dot{q_A}) - U(q_A, t)
\tag{2.2.3-4}
\]
で表せます。
これも前節同様、一般座標で書き換えれば、
\[
L(q_A, \dot{q_A}, t)
=
T_A(\dot{q_A}) - U(q_A, t)
\tag{2.2.3-5}
\]
となります。この場合、ラグランジアンは時間を陽に含むことになります。
2.2.4.循環座標
ポテンシャルに絡めて例えば、二次元平面内を質点が中心力場において等速円運動を行っている場合を考えます。
このとき、質点の速度は直交座標系と極座標でそれぞれ次のように表現できます。
\[
\bf{v}
=
\left(
\begin{array}{c}
\dot{x}
\\
\dot{y}
\end{array}
\right)
=
r \dot{\theta}
\left(
\begin{array}{c}
- \sin \theta
\\
\cos \theta
\end{array}
\right)
\tag{2.2.4-1}
\]
これをラグランジアンに代入すると、
\[
L
=
\frac{1}{2} m (\dot{x}^2 + \dot{y}^2) - U(x, y)
=
\frac{1}{2} m (r\dot{\theta})^2 - U(r, \theta)
\tag{2.2.4-2}
\]
となります。
ところで、質点は等速円運動を行っているためrは定数となり、本来自由度4であったはずの運動が、極座標表現では自由度が2に縮約されます。
一般座標においても座標系の取り方によって、自由度を縮約できる場合があります。
このように、ラグランジアンLに陽に含まれない一般座標(この場合はrとその時間微分の2つ)を
循環座標と呼びます。
この循環座標をうまく見出すことによって、運動方程式はより扱いやすくなるはずです。