3.3.2.有界変動関数の収束
区間\([-\pi,\pi]\)において有界変動(有界変分)の関数\(f(x)\)はフーリエ級数展開可能で、\(f(x)\)の不連続点において級数は、以下の値(相加平均)に収束する」ことを証明します。
\[
\large{相加平均} = \normalsize{\frac{f(x-0)+f(x+0)}{2}}
\]
まず、フーリエ級数の部分和を\(s_n(x)\)とおきます
\[
\begin{cases}
& s_n (X)
= \displaystyle \frac{a_o}{2} + \sum_{k=1}^{n-1} ( a_k \cos (kX) + b_k \sin (kX) )
\\
& a_k
= \displaystyle \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(t) \cos (kt) dt
\\
& b_k
= \displaystyle \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(t) \sin (kt) dt
\end{cases}
\]
(3.2-2)(3.2-3)式を用いて\(s_n(x)\)は次のように表すことができます。
\[
\begin{align}
s_n(x)
& = \frac{1}{2\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(x+t)
\frac{\sin \left( n + \displaystyle \frac{1}{2}\right)t}{\sin \displaystyle \frac{t}{2}} dt
\\
& = \frac{1}{2\pi}
\left\{
\int_{0}^{\pi} f(x+t)
\frac{\sin \left( n + \displaystyle \frac{1}{2}\right)t}{\sin \displaystyle \frac{t}{2}} dt
+ \int_{0}^{\pi} f(x-t)
\frac{\sin \left( n + \displaystyle \frac{1}{2}\right)t}{\sin \displaystyle \frac{t}{2}} dt
\right\}
\end{align}
\tag{3.3-1}
\]
このときの\( n \rightarrow \infty \)における\( s_n(x) \)を求めます。
ここで、ディリクレ積分について検討します。
区間\( [0,a] \)において関数\( f(x) \)が有界変動(有界変分)ならば、以下の式が成立します。
\[
\lim_{ n \rightarrow \infty} \int_{0}^{a}f(x) \frac{\sin ux}{x}dx
=
\frac{\pi}{2} f(+0)
\tag{3.3-2}
\]
関数\(f(x)\)は区間\([0,a]\)において有界変動ですから、\(f(x)\)の増分を積算した関数を\(P(x)\)(これを正の変動と呼びます)、減分を積算した関数を\(-N(x)\)(これを負の変動)とした場合、次の関係が成り立ちます。
\[
f(x)=f(+0)+P(x)-N(x)
\]
そこで、上式を(3.3-2)式に代入すると、
\[
\begin{align}
\lim_{ n \rightarrow \infty} \int_{0}^{a}f(x) \frac{\sin ux}{x}dx
& =
\lim_{ n \rightarrow \infty} \int_{0}^{a} \left\{ f(+0)+P(x)-N(x) \right\} \frac{\sin ux}{x}dx
\end{align}
\]
が得られます。この各項の積分について
\[
\begin{align}
& \lim_{ n \rightarrow \infty} \int_{0}^{a} f(+0) \frac{\sin ux}{x}dx
= f(+0) \lim_{ n \rightarrow \infty} \int_{0}^{a} \frac{\sin ux}{x}dx
=\frac{\pi}{2} f(+0)
\\
& \lim_{ n \rightarrow \infty} \int_{0}^{a} P(x) \frac{\sin ux}{x}dx
= 0
\\
& \lim_{ n \rightarrow \infty} \int_{0}^{a} N(x) \frac{\sin ux}{x}dx
= 0
\end{align}
\]
が言えれば良いことになります。
つまり、(3.3-2)式を証明するには、区間\([0,a]\)において関数\(f(x)\)が有界変動かつ単調増加で\(f(0)=0\)のとき、以下の式が成立することを示せればよいことになります。
\[
\lim_{ n \rightarrow \infty} \int_{0}^{a} f(x) \frac{\sin ux}{x}dx
= 0
\tag{3.3-3}
\]
なお、\(f(0)=0\)は一次変換することで得られますので、これによって関数の性質を変えることはありません。
さて、任意に\( \epsilon \gt 0 \)をとって、\( 0\lt c \lt a、0 \leq f(c) \lt \epsilon \)とします。
このとき、積分法の第二平均値の定理を区間\([0,c]\)に適用します。
関数\(f(x)\)が単調増加であることに着目すれば、
\[
\int_{0}^{c} f(x) \frac{\sin ux}{x}dx
= f(c) \int_{u_r}^{u_c} \frac{\sin ux}{x}dx
\tag{3.3-3}
\]
ここで、
\( \displaystyle \int_{0}^{\infty} \frac{\sin x}{x}dx = \frac{\pi}{2} \)
に収束するので
\( \displaystyle \int_{u_r}^{u_c} \frac{\sin x}{x}dx \)
は区間\([0,\infty)\)で有界となります。
よって、この積分の絶対値の上限をMととると、次の関係が成り立ちます
\[
\bigl| f(c) \int_{u_r}^{u_c} \frac{\sin x}{x}dx \Bigl|
\lt
Mf(c)
\lt
M \epsilon
\tag{3.3-4}
\]
今度は区\([c,a]\)に積分法の第二平均値の定理を適用します。
前回同様、関数\(f(x)\)が単調増加であることに着目すれば、
\[
\int_{c}^{a} f(x) \frac{\sin ux}{x}dx
= f(a) \int_{u_c}^{u_a} \frac{\sin ux}{x}dx
\tag{3.3-3}
\]
\(0 \lt c \lt \tau \)であることから
\( \displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty} \frac{\sin x}{x} = 0\)
となるので
\( \displaystyle \left| \int_{u_r}^{u_c} \frac{\sin x}{x}dx \right| \lt \epsilon \)
になります。
(これは、\(n \rightarrow \infty \)のとき部分和\( s_n,s_m \rightarrow 0 \)の剰余\( R_n,R_m \rightarrow 0 \)であることからもわかります)。
また、関数\(f(x)\)は区間\([0,a]\)で単調増加ですから、\(|f(x)| \lt B \)とすれば
\[
\left| \int_{c}^{a} f(x) \frac{\sin ux}{x}dx \right|
\lt
B \epsilon
\tag{3.3-5}
\]
となります。
したがって、(3.3-4)(3.3-5)式から任意の正数\( \epsilon \)に対し以下の式が成立します。
\[
\left| \int_{0}^{a} f(x) \frac{\sin ux}{x}dx \right|
\lt
(B + M ) \epsilon
\ \leftarrow \
\left| \int_{0}^{a} f(x) \frac{\sin ux}{x}dx \right|
\lt
0
\]
\( \displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty} \int_{0}^{a} f(x) \frac{\sin ux}{x}dx = 0 \)
が示せたところで、今度はフーリエ級数の部分和\(s_n(x)\)に着目します。
表記を楽にするため
\( \displaystyle h(x) = \frac{\sin \left(n+\frac{1}{2}) \right)t}{\sin \frac{t}{2}} \ \)
とおいて、
\[
2 \pi s_n
=
\int_{0}^{\pi} f(x+t)h(x)dt + \int_{0}^{\pi} f(x-t)h(x)dt
\]
ここで次の式を考えます。
\[
\int_{0}^{\pi} f(x+t) \frac{\sin \left(n+\frac{1}{2} \right)t}{\sin \frac{t}{2}} \ dt
- \int_{0}^{\pi} f(x+t) \frac{\sin \left(n+\frac{1}{2} \right)t}{\frac{t}{2}} \ dt
\\
=
\int_{0}^{\pi} f(x+t) \left( \frac{t}{\sin \frac{t}{2}} - 2 \right) \frac{\sin ut}{t} dt
\]
上式右辺について、
\( \displaystyle \lim_{t \rightarrow 0} \left( \frac{t}{\sin \frac{t}{2}} - 2 \right) = 0\)
、区間\([0,\pi] \)で単調増加となります。
従って、
\( f(x+t) \displaystyle \left( \frac{t}{\sin \frac{t}{2}} - 2 \right) \)
を\(f(x)\)として(3.3-3)式に代入すれば、
\[
\lim_{n \rightarrow \infty}
\int_{0}^{\pi} f(x+t) \displaystyle \left( \frac{t}{\sin \frac{t}{2}} - 2 \right)
\frac{\sin ut}{t} \ dt
= 0
\tag{3.3-6}
\]
となります。
(3.3-6)式の結果と(3.3-3)式ディリクレ積分の結果から
\[
\lim_{n \rightarrow \infty}
\int_{0}^{\pi} f(x+t) \frac{\sin \left(n+\frac{1}{2} \right)t}{\sin \frac{t}{2}} \ dt
=
\lim_{n \rightarrow \infty}
\int_{0}^{\pi} f(x+t) \frac{\sin \left(n+\frac{1}{2} \right)t}{\frac{t}{2}} \ dt
= \pi f(x+0)
\]
\[
\lim_{n \rightarrow \infty}
\int_{0}^{\pi} f(x-t) \frac{\sin \left(n+\frac{1}{2} \right)t}{\sin \frac{t}{2}} \ dt
=
\lim_{n \rightarrow \infty}
\int_{0}^{\pi} f(x-t) \frac{\sin \left(n+\frac{1}{2} \right)t}{\frac{t}{2}} \ dt
= \pi f(x-0)
\]
よって、(3.3-3)式から以下の結果が得られます。
\[
\lim_{n \rightarrow \infty} s_n(x)
=
\frac{f(x-0)+f(x+0)}{2}
\tag{3.3-7}
\]
この結果は、関数\(f(x)\)が区間\([-\pi,\pi]\)において有界変動であるという条件のみから導き出されたものです。
つまり、連続点でも不連続点でも同じ結果が導き出されることを示しています。
関数\(f(x)\)が連続の場合、\(f(x+0)=f(x-0)\)ですので、点\(x\)においてフーリエ級数は\(f(x)\)に収束します。
また点\(x\)が不連続点の場合、フーリエ級数は\(f(x)\)の相加平均に収束します。