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3.2.三角関数系の完備性

本節では、すべての連続関数\(f(x)\)に対して三角関数系は完備(2.5節参照)であることを証明します。 証明は長いため、まずはチェザロ平均の導入に始まり、証明に必要なフェイエールの定理を導出したのち、三角関数の完備性について証明します。

3.2.1.チェザロ平均

無限級数の部分和\(s_n ( n = 1,2,\ldots) \)に対して、n個の相加平均
\[ \sigma_n = \frac{s_1 + \ldots + s_n}{n} \tag{3.2.1-1} \]
チェザロ平均と呼びます。 チェザロ平均の特徴として、部分級数\( s_n \)が収束すればその相加平均\( \sigma_n \)も収束し
\[ \lim_{n \rightarrow \infty} s_n = s \ \rightarrow \lim_{n \rightarrow \infty} \sigma_n = s \tag{3.2.1-1} \]
となります。 ただし、部分級数\( s_n \)が収束しなくてもチェザロ平均\( \sigma_n \)が収束する場合があります。
この性質により、部分和の収束を考えるよりもチェザロ平均の収束を考えた方が収束に対して優位性があることから、次節のフェイエールの定理にチェザロ平均を用います。

3.2.2.フェイエールの定理

本節では、三角関数系の完備性を証明するために必要となるフェイエールの定理の導出を行います。
フェイエールの定理とは、周期\( 2 \pi \)の連続関数\( f(x) \)について、そのフーリエ級数の部分和列のチェザロ平均が\( f(x) \)に一様収束することです。

級数展開のターゲットとなる関数\( f(x) \)は周期\( 2 \pi \)で区間\( [ -\pi,\pi ] \)で積分可能とし、有限級数\(s_n(x)\)(nは任意の自然数)とその係数を以下のように定義します。
\[ \begin{align} & s_n (X) = \displaystyle \frac{a_o}{2} + \sum_{k=1}^{n} ( a_k \cos (kX) + b_k \sin (kX) ) \\ & a_k = \displaystyle \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(t) \cos (kt) dt \\ & b_k = \displaystyle \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(t) \sin (kt) dt \end{align} \tag{3.2.2-1} \]
有限級数\(s_n(x)\)に係数\(a_k,b_k\)を代入して
\[ \begin{align} s_n (X) & = \frac{1}{2\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(t) dt \\ & \qquad + \sum_{k=1}^{n} \frac{1}{\pi} ( \int_{-\pi}^{\pi} f(t) \cos (kt) dt \cos (kX) \\ & \qquad \qquad + \int_{-\pi}^{\pi} f(t) \sin (kt) dt \sin (kX) ) \\ & = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(t) \left\{ \frac{1}{2} + \sum_{k=1}^{n} ( \cos (kX) \cos (kt) + \sin (kX) \sin (kt) ) \right\}dt \\ & = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(t) \left\{ \frac{1}{2} + \sum_{k=1}^{n} \cos k(t-X) \right\} dt \end{align} \]
が得られます。 ここで\( t-X=x \)に置き換え、関数\( f(t) \)および三角関数列が周期\(2\pi\)を持つことから、
\[ s_n(x) = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(x+t) \left( \frac{1}{2} + \sum_{k=1}^{n-1} \cos kt \right) dt \tag{3.2.2-2} \]
が得られます。 この被積分関数の()の部分
\[ D_n(x) = \frac{1}{2} + \sum_{k=1}^{n} \cos k(t-X) \tag{3.2.2-3} \]
ディリクレ核(ディリクレ積分核)と呼ばれる関数\(D_n(x)\)で、積分するときの重み関数の位置づけになります。 この積分核は、三角関数の公式
\[ 2 \sin \alpha \cos \beta = \sin ( \alpha - \beta ) + \sin ( \alpha + \beta ) \]
をもとに次のように変形できます。
\[ \begin{align} \left( \sin \frac{t}{2} \right) D_n(x) & = \frac{1}{2} \left( \sin \frac{t}{2} + \sum_{k=1}^{n} \sin \frac{t}{2} \cos kt \right) \\ & = \frac{1}{2} \biggl\{ \sin \frac{t}{2} + \left( \sin ( \frac{1}{2} - 1 ) t + \sin (\frac{1}{2} + 1)t \right) \\ & \qquad + \ldots + \left( \sin ( \frac{1}{2} - n ) t + \sin ( \frac{1}{2} + n )t \right) \biggl\} \\ & = \frac{1}{2} \sin \left( n+ \frac{1}{2} \right) t \end{align} \]
従って、
\[ \begin{align} D_n(x) = \frac{ \displaystyle \frac{1}{2} \sin \left( n- \frac{1}{2} \right) t }{ \displaystyle \sin \frac{t}{2}} = \frac{\cos (n-1)t - \cos nt}{2(1-\cos t)} \end{align} \tag{3.2.2-4} \]
と変形でき、\( s_n(x) \)は次のように書き換えられます。
\[ s_n(x) = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(x+t) \frac{\cos (n-1)t - \cos nt \qquad}{2(1-\cos t)} dt \tag{3.2.2-5} \]
ここで\( s_n(x) \)のチェザロ平均\( \sigma_n(x) \)を、これまでの結果を用いて変形します。
\[ \begin{align} \sigma_n(x) & = \frac{s_1(x) + s_2(x) + \ldots + s_n(x)}{n} \\ & = \frac{1}{2 \pi n} \int_{-\pi}^{\pi} f(x+t) \frac{1 - \cos t + \cos t -\cos 2t + \cos 2t- \ldots \qquad \quad }{1-\cos t} dt \\ & = \frac{1}{2 \pi n} \int_{-\pi}^{\pi} f(x+t) \frac{1-\cos nt \ }{1-\cos t} dt \\ & = \frac{1}{2 \pi n} \int_{-\pi}^{\pi} f(x+t) \left( \frac{\sin \displaystyle \frac{nt}{2} }{\sin \displaystyle \frac{t}{2}} \right)^2 dt \end{align} \tag{3.2.2-6} \]
\( f(x) =1 \)のとき、(3.2.2-1)式から係数\(a_n,b_n\)は
\[ \begin{align} & a_o = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} dX = 2 \\ & a_n = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} \cos (nX) dX = \frac{1}{n\pi} \Bigl[ \sin nX \Bigl]_{-\pi}^{\pi} = 0 \ (n=1,2,\ldots) \\ & b_n = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} \sin (nX) dX = \frac{1}{n\pi} \Bigl[ \cos nX \Bigl]_{-\pi}^{\pi} = 0 \ (n=1,2,\ldots) \end{align} \]
となり、
\[ \begin{align} & s_n(x) = \displaystyle \frac{a_o}{2} + \sum_{k=1}^{n} ( a_k \cos (kX) + b_k \sin (kX) ) = 1 \end{align} \]
が得られます。 従って\(\sigma_n(x)\)もまた1になり、(3.2.2-6)式は次のようになります。
\[ 1= \frac{1}{2 \pi n} \int_{-\pi}^{\pi} \left( \frac{\displaystyle \sin \frac{nt}{2} }{\displaystyle \sin \frac{t}{2}} \right)^2 dt \tag{3.2.2-7} \]
この両辺に\( f(x) \)を掛けて(3.2.2-6)式から引くと次の式が得られます。
\[ \sigma_n(x)-f(x) = \frac{1}{2 \pi n} \int_{-\pi}^{\pi} h(x,t) dt \tag{3.2.2-8} \]
ただし、\( h(x,t) = \left\{ f(x+t) - f(x) \right\} \left( \frac{\sin \displaystyle \frac{nt}{2} }{\sin \displaystyle \frac{t}{2}} \right)^2 \)
\( f(x) \)の連続性から、任意の\( \epsilon \gt 0 \)に対して区間\( [ -\pi,\pi] \)において

\( |t| \lt \delta \)のとき、 \( | f(x+t) - f(x)| \lt \epsilon \qquad \ldots (3.2.2-9)\) 

となる\( \delta \gt 0 \)が定められます。 \( \delta \)は\( |t| \)の上限を決めるだけで、\( x \)とは無関係に決まります。
この\(\delta\)によって(3.2.2-8)式の積分を三分割します。
\[ \sigma_n(x)-f(x) = \frac{1}{2 \pi n} \left\{ \int_{-\pi}^{^\delta}h(x,t)dt + \int_{-\delta}^{^\delta}h(x,t)dt + \int_{\delta}^{^\pi}h(x,t)dt \right\} \tag{3.2.2-10} \]
上式右辺第二項は(3.2.2-9)の条件から次の不等式が成り立ちます。
\[ \begin{align} \frac{1}{2 \pi n} \left| \int_{-\delta}^{\delta} h(x,t) dt \right| \lt \frac{\epsilon}{2 \pi n} \int_{-\delta}^{\delta} \left( \frac{\sin \displaystyle \frac{nt}{2} }{\sin \displaystyle \frac{t}{2}} \right)^2 dt \lt \epsilon \end{align} \tag{3.2.2-11} \]
また、\( f(x) \)は区間\([-\pi,\pi]\)で連続なので有界で、その上界を\( M \)とすると、
\[ | f(x+t) - f(x) | \lt |f(x+t)| + |f(x)| \lt 2M \]
となること、
\[ \begin{align} \Biggl| \int_{-\pi}^{-\delta} h(x,t) dt + \int_{\delta}^{\pi} h(x,t) dt \Biggl| = 2 \Biggl| \int_{\delta}^{\pi} h(x,t) dt \Biggl| \end{align} \tag{3.2.2-12} \]
であること、さらには\( [ \delta, \pi ] \)で\( \displaystyle \sin \frac{t}{2} \leqq \sin \frac{\delta}{2} \)であることから、
\[ \begin{align} \frac{2}{2 \pi n} \ \Biggl| \int_{\delta}^{\pi} h(x,t) dt \Biggl| & \lt \frac{4M}{2 \pi n } \int_{\delta}^{\pi} \left( \frac{\sin \displaystyle \frac{nt}{2} }{\sin \displaystyle \frac{t}{2}} \right)^2 dt \\ & \leqq \frac{4M}{2 \pi n } \int_{\delta}^{\pi} \left( \frac{\sin \displaystyle \frac{nt}{2} }{\sin \displaystyle \frac{\delta}{2}} \right)^2 dt \\ & = \frac{4M}{2 \pi n \left( \sin \displaystyle \frac{\delta}{2} \right) ^2} \ \int_{\delta}^{\pi} \left( \sin \displaystyle \frac{nt}{2} \right)^2 dt \\ & \lt \frac{2M}{ n \left( \sin \displaystyle \frac{\delta}{2} \right) ^2 } \end{align} \tag{3.2.2-13} \]
となります。 以上の結果をまとめると、
\[ |\sigma_n(x)-f(x)| \lt \epsilon + \frac{2M}{ n \left( \sin \displaystyle \frac{\delta}{2} \right) ^2 } \tag{3.2.2-14} \]
の関係が得られます。 ここで\(n \rightarrow \infty \)、\(\epsilon \rightarrow 0\)をとって、
\[ \lim_{n \rightarrow \infty} |\sigma_n(x)-f(x)| = |\sigma(x)-f(x)| \lt \epsilon \\ \therefore |\sigma(x)-f(x)| = 0 \tag{3.2.2-15} \]
が得られ、\([-\pi,\pi]\)において\(s_n(x)\)のチェザロ平均\(\sigma_n(x)\)は\(f(x)\)に一様収束することが証明されました。

3.2.3.三角関数系の完備性

次に、三角関数系が完備であることの証明に進みます。
\( \sigma_n(x) \)は
\[ \begin{align} n \sigma_n & = s_1 + \ldots + s_n \\ & = \displaystyle n \frac{a_o}{2} + n a_1 \cos x + ( n - 1) a_2 \cos 2x + \ldots + a_n \cos nx \\ & \qquad + n b_1 \sin x + ( n - 1) b_2 \sin 2x + \ldots + b_n \sin nx \\ & = \displaystyle n \frac{a_o}{2} + \sum_{k=1}^{n} \{ (n - (k - 1)) a_k \cos kx + (n - (k - 1)) b_k \sin kx \} \end{align} \] となるので、次のように表せます。
\[ \sigma_n(x) = \frac{a_o}{2} + \sum_{k=1}^{n} \left( p_k \cos kx + q_k \sin kx \right) \tag{3.2.3-1} \]
\[ \Bigl( p_k = \left(1-\frac{k-1}{n} \right) a_k, q_k = \left(1-\frac{k-1}{n} \right) b_k \Bigl) \]
上式の各項の係数\( p_k, q_k \ \)を\( n \rightarrow \infty \)にするとそれぞれ\( a_k,b_k \ \)に収束します。
\[ \begin{align} & \lim_{n \rightarrow \infty} \ p_k = \lim_{n \rightarrow \infty} \left(1-\frac{k}{n} \right) a_k =a_k \\ & \lim_{n \rightarrow \infty} \ q_k = \lim_{n \rightarrow \infty} \left(1-\frac{k}{n} \right) b_k =b_k \end{align} \]
このことを踏まえて\( \sigma_n(x) \)の極限を求めると、\( \sigma_n(x) \)は有限級数の極限\( s(x) \)に収束します。
\[ \begin{align} \lim_{n \rightarrow \infty} \ \sigma_n(x) & = \lim_{n \rightarrow \infty} \left\{ \frac{a_o}{2} + \sum_{k=1}^{n-1} \left( p_k \cos kx + q_k \sin kx \right) \right\} \\ & \rightarrow \frac{a_o}{2} + \sum_{k=1}^{\infty} \left( a_k \cos kx + b_k \sin kx \right) \\ & = s(x) \end{align} \tag{3.2.3-2} \]
前節で\( \sigma_n(x) \)は\( f(x) \)に収束することが証明されているので、\( s(x) \)もまた\( f(x) \)に収束します。
\[ \begin{align} \lim_{n \rightarrow \infty} \int_{-\pi}^{\pi} \{ f(x) - \sigma_n(x) \}^2 dx = \int_{-\pi}^{\pi} \{ f(x) -s(x) \}^2 dx = 0 \end{align} \tag{3.2.3-3} \]
三角関数系は3.1節により正規直交関数系であり\( 1 / \sqrt{ n \pi } \ \)は係数に含めることで対応できます)、\( s(x) \)はその級数の極限であることから、(3.2.3-3)式はパーセバルの等式(2.5-6)式そのものです。
従って、三角関数系は連続関数である\( f(x) \)に関して完備であることが証明できました。

参考文献