2.一般化フーリエ級数
2.1.直交関数系
2.1.1.関数の内積と直交
区間[a,b]で積分可能な2つの関数\( f(x), g(x)\)の積の積分を関数の
内積といいます。
\[
( f, g )
=
\int_{a}^{b} f(x) g(x) dx
\tag{2.1-1}
\]
この関数の内積が“0”のとき、\( f(x) \)と\( g(x)\)は
直交する、といいます。
\[
( f, g )
=
\int_{a}^{b} f(x) g(x) dx
=
0
\tag{2.1-2}
\]
また、同じ関数\( f(x) \)どうしの内積は
\[
( f, f )
=
\int_{a}^{b} f(x)^2 dx
\geqq
0
\tag{2.1-3}
\]
であって、\( (f,f)=0 \ \)は\( \ f(x)=0 \)の場合に限られ、逆に言えば\( f(x) \neq 0 \)なら\( (f,f) \gt 0 \)となります。
そこで、
\[
f_o(x)
=
\frac{f(x)}{\sqrt{ (f,f) }}
\quad ( f(x) \neq 0 )
\]
となる関数\( f_o(x) \)を導入すると、
\[
\begin{align}
(f_o,f_o)
=
1
\end{align}
\tag{2.1-4}
\]
になります。
この関数\( f_o(x) \)は、\(f(x)\)を
正規化(標準化)した関数といいます。
以上の内容は、ベクトルの直交関係(内積=0)、単位ベクトル化(正規化)と同様な意味を持ちます。
2.1.2.正規直交関数系
区間\([a,b]\)で積分可能な関数列\( s_1(x), \ldots, s_n(x),\ldots \)について、互いの内積が
\[
(s_i,s_j)
=
0
\tag{2.1-5}
\]
を満たすとき、\( s_1(x), \ldots, s_n(x),\ldots \)を直交関数列といいます。
なお、関数列とは自然数を添字とする順序付けられた関数の列で、数列の関数版です。
それに対し、関数列の集合を関数系と呼びます
(\( \{ s_1(x), \ldots, s_n(x),\ldots \} = \{ s_n(x) \}_{n \in N} \))。
この直交関数列が正規化されているとき、
\[
(s_i,s_j)
=
\delta_{ij}
=
\begin{cases}
1 (i=j)
\\
0 (i \neq j)
\end{cases}
\tag{2.1-6}
\]
\( s_1(x), \ldots, s_n(x),\ldots \)を
正規直交関数列、その集合\( \{ s_1(x), \ldots, s_n(x),\ldots \} = \{ s_n(x) \}_{n \in N} \ \)を
正規直交関数系と呼びます。
三角関数系は正規直交関数系の具体例の1つとなりますが、これについては
3.1節でみることにします。
2.2.線型独立な関数
区間[a,b]で積分可能な関数列\( s_1(x), \ldots, s_n(x),\ldots \)の線型結合(一次結合)について
\[
0
=
p_1 s_1(x) + \ldots + p_n s_n(x)
\tag{2.2-1}
\]
を満たす条件が
\[
p_1 = \ldots = p_n = 0
\]
に限られるとき、関数列\( s_1(x), \ldots, s_n(x),\ldots \)は
線型独立(一次独立)である、といいます。
関数の線型独立は、線型代数の線型独立(
線型代数参照)と概念的に同じです。
もし任意のnに対して\(s_n(x) \neq 0\)なら、\( p_1 = \ldots = p_{n-1} = 0, p_n \neq 0 \)でも(2.2-1)式を満足し、線型独立の条件と矛盾します。
また、\(s_i(x) = k s_j(x) \ (n \neq i,j) \)の場合、\( p_1 = \ldots = p_n = 0, p_i=1, p_j=k \)でも(2.2-1)式を満足し、線型独立の条件と矛盾します。
従って、関数列が線型独立なら、\( s_i(x) \neq k s_j(x) \)、\( s_i(x) \neq 0 \)でなければなりません。
2.3.関数の直交化
区間\([a,b]\)で与えられる線型独立な関数列\( s_1(x), \ldots, s_n(x) \)の線型結合
\[
u_n(x)
=
p_{n,1} \ s_1(x) + \ldots + p_{n,n} \ s_n(x)
\tag{2.3-1}
\]
から正規直交関数系が作られることを導きます。
そこで、次の関数\(v_n(x)\)をつくります。
\[
\begin{align}
& a_{ij}
=
(s_i,s_j)
\\
& v_n(x)
=
\begin{vmatrix}
a_{11} & \ldots & a_{1n}
\\
\vdots & \ddots & \vdots
\\
a_{n-1,1} & \ldots & a_{n-1,n} \
\\
s_1(x) & \ldots & s_n(x)
\end{vmatrix}
\ (行列式)
\end{align}
\tag{2.3-2}
\]
この\( v_n(x) \)は、行列式の定義により関数系\( s_1(x), \ldots, s_n(x) \)の線型結合になります。
\[
v_n(x) = d_1 s_1(x) + \ldots + d_n s_n (x)
\]
(\( d_1, \ldots, d_n\)は行列式演算で算出される各\(s_1(x), \ldots, s_n(x)\)の係数)
ここで、\( (s_i,v_n) \)を計算すると、
\[
\begin{align}
(s_i,v_n)
& =
\int_{A}^{b} s_i(x) \{ d_1 s_1(x) + \ldots + d_n s_n (x) \} dx
\\
& = d_1 \int_{A}^{b} s_i(x) s_1(x) dx + \ldots + d_n \int_{A}^{b} s_i(x) s_n (x) dx
\\
& = d_1 ( s_i,s_1) + \ldots + d_n ( s_i,s_n)
\\
& =
\begin{vmatrix}
a_{11} & \ldots & a_{1n}
\\
\vdots & \ddots & \vdots
\\
a_{n-1,1} & \ldots & a_{n-1,n} \
\\
a_{i,1} & \ldots & a_{i,n}
\end{vmatrix}
\
( \because (s_i,s_j) = a_{ij} )
\end{align}
\]
となり、(2.3-2)式の最終行が\(s_i(x)\)から\( (s_i,s_j) = a_{ij} \ \)に入れ替わっただけです。
この行列の最終行は\( i \)行目と一致するため、この行列式は0、つまり
\[
(s_i,v_n) = 0
\quad
(i=1,\ldots,n-1)
\]
になります。
この関係から、\( 1 \leqq i \leqq n-1 \)において\( s_i \)と\( v_n \)は直交関係にあることがわかります。
従って、
\[
\begin{align}
(v_i,v_n)
& =
\int_{A}^{b} v_i(x) \{ d_1 s_1(x) + \ldots + d_n s_n (x) \} dx
\\
& = d_1 \int_{A}^{b} v_i(x) s_1(x) dx + \ldots + d_n \int_{A}^{b} v_i(x) s_n (x) dx
\\
& = d_1 ( v_i,s_1) + \ldots + d_n ( v_i,s_n)
\\
& =
\begin{vmatrix}
a_{11} & \ldots & a_{1n}
\\
\vdots & \ddots & \vdots
\\
a_{n-1,1} & \ldots & a_{n-1,n} \
\\
( v_i,s_1) & \ldots & 0 \
\end{vmatrix}
\\
& = | A_{n-1}| \times 0
\qquad \Bigl( \because |A_{n-1}| = (a_{ij} \ )_{n-1} \ \Bigl)
\\
& = 0
\end{align}
\]
が得られます。
また、上二つの式の\(s_i,v_i\)に\(s_n,v_n\)を代入すると
\[
\begin{align}
& (s_n,v_n)
=
\begin{vmatrix}
a_{11} & \ldots & a_{1n}
\\
\vdots & \ddots & \vdots
\\
a_{n-1,1} & \ldots & a_{n-1,n} \
\\
a_{n,1} & \ldots & a_{n,n}
\end{vmatrix}=
|A_n|
\\
& (v_n,v_n)
=
\begin{vmatrix}
a_{11} & \ldots & a_{1n}
\\
\vdots & \ddots & \vdots
\\
a_{n-1,1} & \ldots & a_{n-1,n} \
\\
0 & \ldots & (s_n,v_n)
\end{vmatrix} = |A_{n-1} \ | (s_n,v_n)
=
|A_{n-1} \ | |A_n|
\end{align}
\]
の関係が得られます。
\(v_n(x)\)は線型独立な関数系\( \{s_n(x) \} \)の線型結合で構成されるので\(v_n(x) \neq 0\)です。
従って
2.1節により、\( (v_n,v_n) = |A_{n-1} \ | |A_n| \gt 0\)になります。
以上の結果、関数\( v_n(x) \)は正規化でき
\[
u_n(x)
=
\frac{v_n(x)}{\sqrt{|A_{n-1} \ | |A_n|}}
\]
が得られます。
\(v_n\)は直交関数系、それを正規化したのが\(u_n(x) \)であり、証明は完了です。