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5.歯車に生じるトラブル

設計上あらゆる考察をし尽くしたうえで歯車を製作したとしても、完全にトラブルを回避するのはなかなか難しいものです。 そのため、歯車に発生するトラブルについて知っておくことが重要です。
歯車に発生する主なトラブルには次のようなものが挙げられます。
  • 振動・騒音
  • 異常発熱
  • 損傷・摩耗
次節以降で、それぞれについて見ていくことにします。

5.1.振動・騒音

振動・騒音が生じる原因として考えられるのは、次のようなものです。
  1. 歯の干渉
  2. ガタつき
  3. 歯あたり不良
  4. 噛み合い不良
  5. スラスト力発生

(1)歯の干渉

物と物がぶつかり合えば必ず音が鳴ります。 これは衝突によって物の表面に発生した振動が空気に伝播し、音となって私たちの耳に届くためです。 不必要な衝突はよけない振動・騒音を誘発するため、トラブルの元です。

(2)ガタつき

バックラッシを大きくすると歯のガタつきが大きくなり、騒音が発生します。 また、バックラッシを極端に小さくすると、歯と歯の隙間がつまり、歯の変形等によって歯同士の干渉が生じ、 これもまた騒音の原因となります。

(3)歯あたり不良

歯面の精度不良や摩耗、歯車の組立精度不良、歯車や軸、ケース類の変形等によって歯あたり不良が生じ、これにより振動・騒音が発生します。 歯あたりにムラがあれば接触ムラが生じ、その変動のによって振動・騒音が発生します。 特にこのような振動が歯車の回転周期、あるいはそれとハーモニックな関係にある周期と近接したり合致すれば、うなりや共振といった現象につながります。

(4)噛み合い不良

噛み合い率は少なくとも1以上必要です。1より小さい場合、歯が全く噛み合わない時期が生じるため、次に噛み合う瞬間、歯同士の衝突が生じ、振動・騒音の発生につながります。

(5)スラスト力の発生

平歯車でも精度(組立精度含む)が悪かったり、低剛性であれば、多少なりともスラスト力を発生します。 はすば歯車はその構造上必ず発生します。 このスラスト力によって振動が発生する場合があります。

5.2.異常発熱

歯車は滑り接触も行われるため発熱します。 特に潤滑が適切でなかったり、歯あたり不良で摩擦係数が大きくなったりすれば、異常発熱を起こします。 この熱によって歯面の融着といったトラブルを起こすだけでなく、製品自体の耐熱性に関するトラブルを引き起こす可能性があります。

5.3.損傷・摩耗

歯車の損傷・摩耗と一口に言っても、実際には様々に分類されています。 これらについては、実際に目で見るのが最も効果的なのですが、著作権上本サイトでは掲載できません。 そのため、本節ではその概要を述べるにとどめ、詳細については参考となるサイト、書籍を紹介しておきます。
<サイト>
JIS B 0160 :歯車-歯面の摩耗及び損傷-用語
上記JISの内容は、次のwebページで閲覧できます。
http://www.jisc.go.jp/app/JPS/JPSO0020.html New Windowアイコン
<書籍>

5.3.1.摩耗

(1)アブレッシブ摩耗

潤滑油や歯面に埋まった介在物によって引き起こされる摩耗で、歯面の滑り方向に線上の溝ができます。 アブレッシブ摩耗の激しいものをスクラッチングといいます。

(2)リッジング

歯面上に生じた塑性変形が、滑り方向にうねりのような隆起で現れます。

(3)オーバーロード

歯先のまくれや表面の剥離によって、歯面にたて傷が生じたものをいいます。

5.3.2.歯面損傷

(1)塑性変形

歯面に大きな負荷が作用し、歯先と歯元方向に塑性流動をおこして歯面を波形や偏平化し、歯先端部にはかえりが生じます。 このとき、歯面全体に高負荷が作用して損傷したものをローリング、局部的に作用して損傷したものをピーニングといいます。 また、潤滑不足による自励振動等の影響で、滑り方向に魚の鱗ににた波模様が生じたものをリップリングといいます。

(2)融着

噛み合い部に局所的な発熱が生じ、歯面の溶着と引き剥がしが繰り返し起こり、歯面に損傷が生じたものをスコーリングといいます。

(3)表面疲労

歯面に繰り返し荷重が作用し、接触点近傍の歯面、あるいはその内部に微細な亀裂が生じ、最終的に剥離をおこし、歯面にピット(孔)が生じる損傷をピッチングといいます。 ピッチングに似た症状で、特に材質硬化の境界部付近から同様な剥離現象が起きるものをスポーリングといいます。

5.3.3.腐食ほか

(1)化学的腐食

化学反応によって歯面が腐食することをいい、赤さびの発生や、腐食性のピットを生じます。

(2)電食

噛み合う歯同士の間で放電が生じることによって、歯面にピットが生じる現象です。 放電加工のように、歯面が溶けた様相を示します。

(3)キャビテーション腐食

潤滑油内に含まれる気相が破裂する際、その衝撃によって生じる腐食で、局所的なスコーリング現象といえます。

(4)フレッティング腐食

歯面研削時に歯面に生じる網目状の微細な割れで、研削時の局所的な加熱が原因になります。 目視での確認は難しく、通常はエッチング処理等を施して調べます。

(5)焼け

高温により歯面が青熱脆性に陥り、硬度低下をおこした状態で、表面が青みがかった状態になります。

5.3.4.折損

(1)過負荷折損

想定外の過大荷重が入力された場合に、一発あるいは数回程度で破壊するものをいいます。 破壊形態は、破断面の状況を見て、脆性破壊と延性破壊を区別することができます(両方生じている場合もあります)。 脆性破壊は破断面がもろくも崩れ去ったような形、変形がほとんど見られない状態で現れます。 延性破壊はそれとは逆に、破断面に粘ったような跡、塑性変形が見られるような状態で現れいます。

(2)疲労折損

繰り返し荷重の作用により、微細なクラックが生じ、そのクラックが進展することで破損に至るものをいいます。 破断面は貝殻模様のようなものが現れ、これをビーチマークといいます。

(3)焼割れ

通常は、歯車の熱処理中に生じる割れです。端部のようなピン角部や硬度変化の境界部に生じるのが一般的です。

(4)研削割れ

接触面が繰り返しはたかれることによって赤さびが発生し、表面のさびが剥がれ落ちることで起きる表面損傷のことをいいます。

参考文献