5.渦
5.1.渦と渦度
“渦”とは辞書によると、「らせん状に巡る激しい水や空気の流れ、またその模様」とありますが、
現在でも物理的に確立された定義はありません。
としてしまうと元も子もありませんので、
ここでは一般的な渦の定義を用いて話を進めることにします。
まずは渦の定義をするにあたり、
渦度というパラメータを定義します。
渦度は流束ベクトル
vのrotを取ったものとします。
流体の運動は並進、回転の6自由度を有します。
流体の並進運動が流速ベクトル
vで定義できるのに対し、
回転運動を規定するものが渦度ベクトル
ωとなります。
この渦度を用いて渦を次のように定義します。
流体内部で渦度がある狭い領域に集中して存在しているとき、
その領域および近傍の流れを
“渦”と定義します。
この定義から、
ω=
0のときは例え流れに回転が生じていても
それを渦とは呼びません。
それとは逆に、見た目に回転が生じていなくても
ω≠
0のときは
渦が生じていることになります。
図5.1-1 渦流れの例(渦層)
5.2.循環
循環は、渦と関係する重要なパラメータになります。
流体力学における
循環とは、
流体内のある閉曲線Cに沿って流速
vの接線方向成分を積分したもの
になります。
この式はストークスの定理によって面積積分に変換できます。
rot
v=
ωであることから、渦度を用いて循環を表すことが出来ます。
(5.2-3)式から、循環とは
流体中にとった断面領域を貫く渦度ベクトル
ωの法線方向の集まり
=渦度の強さ、と言い換えることが出来ます。
図5.2-1 循環の持つ意味
5.3.循環の保存
5.3.1.ケルビンの定理
ここでは理想流体における循環の特徴について考えます。
そこで、循環の時間変化について見てみます。
流体中に任意の閉曲線Cを設定し、C上の流体粒子の運動に着目します。
ある時刻tの閉曲線Cは、Δt秒後C'になるものとします。
このとき、時刻tとt+Δtの循環は次のように表せます。
図5.3.1-1 循環の時間変化
さて、閉曲線C上のあるの時間Δt経過後の位置は次のように表せます。
このうち
r+d
l+
v(
r+d
l,t)dtについては、
テイラー展開を行い二次以降の微小項を無視すれば
となります。
以上より、d
l'は次のようになります。
これを(5.3.1-1)式のΓ(t+Δt)に代入すると、
ここで速度の項をテイラー展開して二次以降の微小項を無視すれば、
(5.3.1-4)式を(5.3.1-3)式に代入して、さらにdtに関する二次以降の微小項を無視すると、
ここで、右辺第二項を
に書き換え、
右辺第三項は変形オイラーの式(3.3-3)を代入することで、以下のように書き換えられます。
(この時点で、理想流体の縛りを入れることに注意!!)
以上より、時間Δtでの循環の変化は次のように表せます。
ところで、閉曲線周りのグラジエント(grad)の積分は0なので、(5.3.1-5)式は
が成り立ちます。
つまり、
理想流体において流体とともに動く閉曲線Cのまわりの循環は時間について一定
であることがわかります。
この(5.3.1-7)式が成り立つことを、
循環の保存則または
ケルビンの定理と呼びます。
5.3.2.循環が保存することの意味
流体内の局所領域=流体粒子について考えます。
流体粒子がある時刻に循環dΓを有しているときは、
この流体粒子には渦度
ωが存在し、(5.2-3)式
が成立します。
これが時間的に不変であることを(5.3.1-7)式は表しています。
そのため、流体粒子の渦度
ωも不変
であることがわかります。
ただし、この場合理想流体であることが前提なため、流体には粘性がない場合に限ります。
「渦度
ωが時間に対して不変である」ということは、
理想流体において、渦が最初から発生していればそれは不滅であり、
最初からなければ一生発生しない、という結論が得られます。
5.4.ポテンシャル流
流体内の全空間において
ω=rot
v=
0が成立する流れを
ポテンシャル流=
渦なしの流れと呼びます。
ポテンシャル流では流速ベクトル
vをスカラーφを用いて次のように表すことができます。
このスカラーφを
速度ポテンシャルと呼びます。
ポテンシャル流において、
流速ベクトル
vが(5.4-1)式のように表せる根拠について以下に示します。
流体内に任意の2点
r1、
r2があります。
図5.4-1 流体中の循環
今、
r1から
r2への任意の
経路C
1、C
2に対する線積分を考えます。
r1からC
1を通って
r2を経由し、
C
2を通って
r1へ戻る閉曲線上の積分は次のようになります。
なお、閉曲線の線積分を面積分に変換するのに、ストークスの定理を用いました。
上式より
I
1=I
2になり、
経路C
1、C
2は任意性を持ちますので、
線積分は経路両端の点
r1、
r2にのみ依存>
することがわかります。
ここで、
r1から
r2への線積分を次のように定義します。
今、
r1と
r2が微小なベクトルΔrだけ離れているとすると、
ある基準点
r0を用いて
と表せます。
基準点
r0は共通なので表記を省略し、
Δ
rは微小ベクトルなので左辺は次のように書き直すことができます。
(5.4-2)(5.4-3)式から
となり、(5.4-1)式が算出されました。
経路C
1、C
2とともに、
2点
r1、
r2も任意性を持ちますので、
流体内において渦度はどこでも
ω=
0になります。
また、この流速ベクトルが
ω=
0を満たすことは
成分計算することによって即座に確かめることができます。
さらに
循環の保存則から、ある時刻に流れがポテンシャル流であれば、
それ以降常に流れはポテンシャル流になります。
(5.3-7)式を用いて、ポテンシャル流が時間に対して保存されることを示します。
上式から
ωは時間にかかわらず一定であることがわかります。
ある時刻で
ω=
0ならば、それが時間に対して保存されますので、
ポテンシャル流は常にその状態を保存することになります。
ポテンシャル流の特徴をまとめると、次のようなものになります。
(1)流れに渦は存在しない
(2)ある時刻にポテンシャル流であれば、それ以降も流れはポテンシャル流である
(ただし、条件として流れは等エントロピー的であること)