3.3.均等変形
物体内のひずみテンソルがいたるところで一定である変形を
均等変形と呼びます。
一般的(工学的)な材料力学において述べられているひずみ、応力、弾性係数、ポアソン比は均等変形が前提になります。
ここで、棒の単純引張りについて考えます。
棒の軸をz軸とし、両端に一様に単位面積あたり\( P \)の力を、棒を引っ張る方向に作用させます。
図3.3-1 棒の単純引っ張り
棒が均等変形していれば(3.2-5)式により応力テンソル\( \sigma_{ij} \)も一定になります。
この条件により棒の境界条件を決定できます。
棒の側面はz軸と必ず垂直になるので、側面の面素ベクトルは\( (n_x, \ n_y, \ 0) \)になります。
また、側面に外力は作用しないため、側面上の応力テンソルは\( \sigma_{ij} \ n_j = 0 \)になります。これらにより次の恒等式が得られ、
\[
\sigma_{ix} n_x + \sigma_{iy} n_y + \sigma_{iz} n_z = 0
\land \
( n_x = 0 \lor n_y = 0 )
\]
これを満たす条件は、\( \sigma_zz \)以外の応力テンソル成分はすべて0になります。
また、棒端面に対しては、
\[
\sigma_{zz} = p
\\
( \because
n_x = 0,
n_y = 0,
n_z = 1
)
\]
が成り立ちます。
ひずみと応力テンソルの関係式(2.3-9)からせん断ひずみ成分(ひずみの非対角成分)はすべて0になります。
従って、圧縮ひずみ成分に関する次の関係が得られます。
\[
\begin{align}
&\epsilon_{zz}
= \frac{1}{3} \left( \frac{1}{\mu} + \frac{1}{3K} \right) P
\tag{3.3-1}
\\
&\epsilon_{xx}
= \epsilon_{yy}
= -\frac{1}{3} \left( \frac{1}{2 \mu} - \frac{1}{3K} \right) P
\tag{3.3-2}
\end{align}
\]
ここで、
\[
\frac{1}{E} = \frac{1}{3} \left( \frac{1}{\mu} + \frac{1}{3K} \right)
\Leftrightarrow \
E = \frac{9 K \mu}{3K + \mu}
\tag{3.3-3}
\]
とおくと(3.2-1)式は非常に簡単な形になります。
\[
P = E \epsilon_{zz}
\tag{3.3-4}
\]
この係数\( E \)を
縦弾性係数(
ヤング率)と呼びます。
また、縦伸びに対する横縮みの比をとって
\[
\nu
= \frac{\epsilon_{xx}}{\epsilon_{zz}}
= \frac{3K - 2 \mu}{ 2 ( 3K + \mu ) }
\tag{3.3-5}
\]
を
ポアソン比と呼びます。
ここで\( x = \mu / K \)とおくと
\[
\nu = \frac{3 - 2 x}{ 2 ( 3 + x ) }
\]
が得られ、\( K > 0 ,\ μ > 0 \)から\( x = 0 \)のとき\( \nu = 1 / 2 \)、
\( x \rightarrow ∞ \)のとき\( \nu \rightarrow -1 \)からポアソン比の変化域が定まります。
現実には\( \nu < 0 \)となる物体は確認されていないため、\( 0 ≤ \nu < 1 / 2 \)がポアソン比の取りうる範囲になります。
次に、体積変化率を(3.3-1)(3.3-2)式から計算します。
\[
\epsilon_{ll}
= -\frac{2}{3} \left( \frac{1}{2 \mu} - \frac{1}{3K} \right) P
+ \frac{1}{3} \left( \frac{1}{\mu} + \frac{1}{3K} \right) P
=\frac{P}{3K}
\tag{3.3-6}
\]
自由エネルギー\( F \)は、応力テンソルが\( \sigma_{zz} \)以外すべて0であることを(3.2-11)式に適用することで求まります。
\[
F
= \frac{1}{2} \sigma_{ij} \ \epsilon_{ij}
= \frac{1}{2} \sigma_{zz} \ \epsilon_{zz}
= \frac{P^2}{2E}
\tag{3.3-7}
\]
このように均等変形を条件として与えることで、実用的(工学的)によく知られる材料力学の関係式が得られます。
そこで、係数\( K , \ \mu \)を、一般的に用いられることの多い\( E ,\ \nu \)に置き換えてみます。
\[
\mu = \frac{E}{2 ( 1 + \nu ) }
\ , \
K = \frac{E}{3 ( 1 - 2\nu ) }
\tag{3.3-8}
\]
自由エネルギー\( F \)の一般式(3.2-3)式については
\[
\begin{align}
F
&= \frac{K}{2} \epsilon_{ll}^2 + \mu \left( \epsilon_{ij} - \frac{1}{3} \delta_{ij} \ \epsilon_{ll} \right)^2
\\
&= \frac{E}{2 ( 1 + \nu )} \ \left( \epsilon_{ij}^2 + \frac{ \nu }{ 1 - 2 \nu } \epsilon_{ll}^2 \right)
\end{align}
\tag{3.3-9}
\]
となります。
また応力テンソル(3.2-5)式とひずみテンソル(3.2-9)式はそれぞれ次のように書き換えられます。
\[
\begin{align}
\sigma_{ij}
&= K \epsilon_{ll} \delta_{ij} + 2 \mu \left( \epsilon_{ij} - \frac{1}{3} \delta_{ij} \ \epsilon_{ll} \right)
\\
&= \frac{E}{1 + \nu} \ \left( \epsilon_{ij} + \frac{ \nu }{ 1 - 2 \nu } \epsilon_{ll} \ \delta_{ij} \right)
\end{align}
\tag{3.3-10}
\]
\[
\begin{align}
\epsilon_{ij}
&= \frac{1}{9K} \ \delta_{ij} \sigma_{ll} + \frac{1}{2 \mu} \left( \sigma_{ij} - \frac{1}{3} \delta_{ij} \ \sigma_{ll} \right)
\\
&= \frac{1}{E} \left( ( 1 + \nu ) \sigma_{ij} - \nu \sigma_{ll} \ \delta_{ij} \right)
\end{align}
\tag{3.3-11}
\]
なお、(3.3-10)、(3.3-11)式は利用頻度が高いことから、その成分形を参考に記述しておきます。
応力テンソル(3.3-10)式について
\[
\begin{align}
&\sigma_{xx}
= \frac{E}{(1+\nu)(1-2\nu)} \ \ \{(1-\nu) \epsilon_{xx} + \nu ( \epsilon_{yy} + \epsilon_{zz}) \}
\\
&\sigma_{yy}
= \frac{E}{(1+\nu)(1-2\nu)} \ \ \{(1-\nu) \epsilon_{yy} + \nu ( \epsilon_{zz} + \epsilon_{xx}) \}
\\
&\sigma_{zz}
= \frac{E}{(1+\nu)(1-2\nu)} \ \ \{(1-\nu) \epsilon_{zz} + \nu ( \epsilon_{xx} + \epsilon_{yy}) \}
\\
&\sigma_{xy}
= \frac{E}{1 + \nu} \epsilon_{xy}
\ , \
\sigma_{yz}
= \frac{E}{1 + \nu} \epsilon_{yz}
\ , \
\sigma_{zx}
= \frac{E}{1 + \nu} \epsilon_{zx}
\end{align}
\]
ひずみテンソル(3.3-11)式について
\[
\begin{align}
&\epsilon_{xx}
= \frac{1}{E} \{ \sigma_{xx} - \nu ( \sigma_{yy} + \sigma{zz} ) \}
\\
&\epsilon_{yy}
= \frac{1}{E} \{ \sigma_{yy} - \nu ( \sigma_{zz} + \sigma{xx} ) \}
\\
&\epsilon_{zz}
= \frac{1}{E} \{ \sigma_{zz} - \nu ( \sigma_{xx} + \sigma{yy} ) \}
\\
&\epsilon_{xy}
= \frac{1 + \nu }{E} \sigma_{xy}
\ , \
\epsilon_{yz}
= \frac{1 + \nu }{E} \sigma_{yz}
\ , \
\epsilon_{zx}
= \frac{1 + \nu }{E} \sigma_{zx}
\end{align}
\]