1.線形代数への準備

本章は、線形代数に必要となる概念をまとめたものです。

そのため、ここでは内容の厳密性は度外視し、その概要を把握しておくことを主目的とします。

1.1.数の概念と四則演算

“数”は物事を数えることから始まったとされ、 そこから自然数(1,2,3,…)が誕生しました。 しかしながら、自然数しか知らない条件下では、加法(+)・乗法(×)の二項演算は機能しますが、 減法(-)・除法(÷)では制限が付きます (マイナスの数や分数などは自然数にはないため)。


そこで、減法(-)・除法(÷)の制限を取り払うために、 自然数は整数→有理数といった概念に拡張されました(ただし0の割り算は除外されます)。 さらに、三角形のピタゴラスの定理で現れる√や、円周率π、自然対数eなどの無理数が加わります。

この有理数と無理数をあわせて実数と言います。


ところで、これまでの話の中で出てきた二項演算 “加法(+)・乗法(×)・減法(-)・除法(÷)”の4つをあわせて 四則演算といい、次の特徴があります。


一つの演算子*(+、-、×、÷のどれか)に対し、


(1)交換法則(交換、対称、可換律) :a*b=b*a
(2)結合法則(結合律) :a*(b*c)=(a*b)*c

二つの演算子*、・(それぞれ+、-、×、÷のどれか)に対し


(3)分配法則(分配律) :(a・b)*c=(a・c)*(b・c)

さて、実数は0で割る以外の四則演算に関して閉じています。 つまり、実数と実数の二項演算の結果から実数が得ることを意味します。

実数*実数=実数

次に、二次方程式の解が実数で表せないものとして√-1が発見されました。 そこで、二乗すると“-1”になる数として虚数iを定義しました。

そして二つの実数の組(a,b)を用いて“(a,b)=a+bi”で表す数を複素数と定義しました。 実数は複素数bを0で表したものに相当します。つまり、 実数は複素数の一部と捉えることができます。 この複素数についても0で割る以外の四則演算に関して閉じたものになります。


1.2.集合

集合とはある条件を満たす“もの”の集まりをいい、 “もの”を(要素)と呼びます。

「aは集合Aの元である」を“a∈A”で表します。また、a,b,c,…∈Aのとき、集合Aを{a,b,c,…}で表します。


前節の実数、複素数はその区別に明確な条件が定義されています。 よって実数全体、複素数全体の集まりはそれぞれ集合であり、 実数全体の集合をR、複素数全体の集合をCで表します。


次に、集合A、Bがあり、Aのすべての元aがBの元でもあるとき、


図1.2-1 部分集合
図1.2-1 部分集合

AはBの部分集合といい“A⊆B”で表します。 A≠Bの場合はA⊂Bで表し、これを真部分集合とよびます。

実数全体の集合Rが複素数全体の集合Cの一部であることは前節のとおりであり、“R⊂C”です。


1.3.体の公理

1.1~1.2節において、


  • 複素数は二つの実数の組(a,b)として表せること
  • 複素数全体が成す集合をCで表す

ことがわかりました。

この集合Cの任意の二元α=(a,b)、β=(c,d)に対し、次の2つの演算を定義します。


  • 和:α+β=(a+c,b+d)
  • 積:αβ=(ac-bd,ad+bc)

このとき、複素数全体の集合Cは以下に示す“体の公理”という性質を持ちます。


<体の公理>

公理I:加法の公理
(1)結合律 :(α+β)+γ=α+(β+γ)
(2)交換律 :α+β=β+α
(3)零元の存在 :(0,0)+α=α+(0,0)=α (0,0)∈C
(4)反対元の存在 :α’+α=α+α’=(0,0) α’=-α∈C
公理II:乗法の公理
(5)結合律 :(αβ)γ=α(βγ)
(6)交換律 :αβ=βα
(7)単位元の存在 :(1,0)α=α(1,0)=α (1,0)∈C
(8)逆元の存在 :αα’=α’α=(1,0) α’=1/α∈C(ただしα≠(0,0))
公理III:加法と乗法の関係に関する公理
(9)分配律 ::α(β+γ)=αβ+αγ、(α+β)γ=αγ+βγ

この体の公理は、b=d=0とすることで、実数全体の集合Rにも適用されます。

実数はこの意味で、複素数の一部と言うことができます。


1.4.数体

数と集合の概念、体の公理が定まることで、“数体”を定義できます。 数体とは、数を元とする“体”の構造を持つ集合のことです。


<数体の定義>

複素数全体を表す集合Cの部分集合をKとします。

この部分集合Kが以下の条件を満足するとき、Kを数体と呼びます。


(1)x,y∈K ⇒ x+y∈K (加法に閉じる)
(2)x,y∈K ⇒ xy∈K (乗法に閉じる)
(3)0,1∈K (零元、単位元の存在)
(4)x∈K ⇒ -x∈K (加法の逆元の存在)
(5)x∈K ⇒ x-1∈K (乗法の逆元の存在)

数体Kの元は“数”であり、これをスカラーと呼びます。

なお、複素数全体の集合C、実数全体の集合Rは上記(1)~(5)を満足するCの部分集合であるため、数体になります。 このとき、Cを複素数体、Rを実数体と呼びます。

逆に数体ではない集合として、自然数全体の集合N(∵(3)~(5)を満足しない)、 整数全体の集合Z(∵(5)を満足しない)等が挙げられます。

1.5.写像と関数

1.5.1.対応と写像

A、Bを2つの集合とします。

ある規則Γが、Aの元aに対してBの部分集合Γ(a)を1つ定めるとき、 Γを集合AからBへの対応といい、Γ:A→Bで表します。 また、Bの部分集合Γ(a)を対応Γによるaのといいます。


これに対し、Aの任意の元aに対して、 規則Fの像F(a)がただ1つの元からなるBの部分集合であるとき、 Fを写像といい、F:A→Bで表します。 つまり写像とは、Aの各元ごとにBの元を1つずつ定めることに他なりません。


このように、“対応”と“写像”の違いは、その像の元の数がただ一つかそうでないかの違いであり、 写像は対応の特別な場合と考えることができます。


図1.5.1-1 対応と写像
図1.5.1-1 対応と写像

ところで、写像の像F(a)の元(bとします)はただ1つのため、F(a)=bとして扱うのが一般的です。 この元bを写像FによるAの(ただし数とは限りません)といいます。

本サイトでもこの考え方に従うものとします。


1.5.2.関数

集合Sの任意の元x(xは数、ベクトル、行列などでも構いません)に対して、 写像fの像f(x)が数体Kの元となる一つの数に対応するとき、この写像fをS上のK値関数といい、 “f:S→K”で表します。

つまり、関数とは写像の特別な場合と考えることができます。


さて、数体Kが実数体Rの場合をR値関数=実数値関数、複素数体Cの場合をC値関数=複素数値関数または関数といいます。


1.5.3.恒等/零/合成写像

集合Aの元xにそれ自身を対応させる写像を恒等写像といい、 一般にIで表します。このとき、I(x)=xとなります。

集合Aの任意の元xにV’の零元o’を対応させる写像を零写像といい、 一般にOで表します。このとき、O(x)=o’となります。

集合A、B、C、写像F:A→B、G:B→Cがあり、Aの元xにCの元G(F(x))を対応させる写像を、 FとGの合成写像またはといい、G∘FまたはGFで表します。


図1.5.3-1 合成写像
図1.5.3-1 合成写像

1.5.4.逆写像

集合AからBへの写像をFとします。

集合Aを写像Fの定義域といい、 定義域(つまりA)の像F(A)をFの値域といい、明らかにF(A)⊆Bになります。


図1.5.4-1 定義域と値域
図1.5.4-1 定義域と値域

ここで、全射、単射、全単射を定義します。


(1)全射

定義域であるAの像、つまり値域F(A)が集合Bと一致するときのFを全射といいます。


(2)単射

Aの任意の元a、a’に対し、

a≠a’ ⇒ F(a)≠F(a’) (言い換えるとF(a)≠F(a’) ⇒ a≠a’)

が成り立つとき、Fを単射といいます。


(3)全単射

Fが全射かつ単射のときを全単射といいます。


全射、単射、全単射、全射でも単射でもない、それぞれの具体的な例を以下に挙げます。

(横軸:定義域、縦軸:値域と考えてもらうとわかりやすいと思います)


図1.5.4-2 全射/単射/全単射の例
図1.5.4-2 全射/単射/全単射の例

ここで、F:A→Bに対して、B→Aへの写像を逆写像といいF-1で表します。 写像F-1に対しては、集合Bが定義域になります。


さて、Fの逆写像F-1が存在するための必要十分条件は、Fが全単射であることになります。

証明は省きますが、上記グラフの例を見ながら、写像の定義「定義域のすべての元に対し、 値域の元をただ1つ定めること」をF:A(定義域)→B、F-1:B(定義域)→Aの両方にあてはめ、 それを同時に満たすのは全単射しかないことは察しがつくと思います。 また、この関係から逆写像F-1も全単射になります。


1.6.線形性とは?

線形性とは、次のような条件を満たすことです。


ある集合Gに二項演算が定義され、以下の4つを満足するものとします。


結合法則/交換法則/単位元の存在/逆元の存在

上記で定義された集合Gの任意の二元をx,yとし、数体Kの元をαとしたとき、

(1)加法性:任意のx,に対してf(x+y)=f(x)+f(y)

(2)斉次性:任意のx,αに対してf(αx)=αf(x)

を満たす関係を、線形性といいます。


ここで登場する集合Gを可換群といいますが、詳細については別途解説ページを設ける予定です。

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