1.ベクトルとは?
ベクトルは次のように定義されます。
順序をつけたn個の数の組
(a1、a2、・・・、an)をn次元ベクトル、
akをその第k成分と呼ぶ。このn次元ベクトルは次のように表す。
本サイトではベクトルを太文字
aで表すものとします。
この定義を見ると、
ベクトルとは
単なる数の組、ということになります。
つまり、高校生のときに習った「大きさと向きを持つ量」という内容はどこにも含まれません。
実はベクトルとは “そんなもん”です。
このベクトルの定義に対して、幾何学的な意味を添えると初めて
「大きさと向きを持つ量」という意味がベクトルに与えられます。
それについては次項で見ていきます。
さて、ベクトルは行でも列でもどちらでも表すことができ、
それぞれを行ベクトル、列ベクトルと呼びます。
ベクトルは行列の仲間であり、行ベクトルは1×n行列、列ベクトルはn×1行列となります。
1.2.ベクトルの幾何学的解釈
まずは、簡単のため2次元ベクトルについて考えます。
2次元直交座標系O-xy上の2点A、Bの位置を(a
1、a
2)、
(b
1、b
2)と置くと、これらは(1.1-1)式より、
(x座標、y座標)を組とする2次元ベクトルになります。
図1.2.1-1 2次元ベクトル
上述のベクトル表記は、基準点(今回はO)を最初に書いて末端点
(今回はA、B)を後に書き、ベクトルを表すために文字の頭に“→”
をつけるように定義されます。
今ここで挙げたOAベクトルなどのように、
原点Oから見た位置を表すベクトルを、
位置ベクトルと呼びます。
また、位置ベクトルのように始点が固定されているベクトルを、
束縛ベクトルと呼びます。
今度は原点Oを基準とはせず、始点をA、端点をBとするABベクトルについて見てみます。
(点AB間のx方向の距離、点AB間のy方向の距離)という組が、ベクトルであることをあてはめると、
先ほどの位置ベクトルの考え方を踏襲して、
と表せます。
1.4項で後述しますが、
これは結局のところ以下のようなベクトルに分解できます。
これまで見てきた
2次元ベクトルは、常に一つの平面内に存在することから、
平面ベクトルといいます。
それに対し、1次元追加した
3次元ベクトルは、
常に一つの空間内に存在することから、
空間ベクトルといいます。
図1.2.1-2 3次元空間ベクトル
1.2.3.ベクトルと有向線分
ここで一つ注意点があります。
結論から言うと、ベクトルと有向線分は違うということです。
以下に、その違いについて見ていきます。
まずは有向線分の定義について見てみます。
“線分”とは長さが有限の直線のことです。
その頭に“有向”とつくことから、
有向線分は
向きを持つ線分ということになります。
これだけを見るとベクトルと同じように思えます。
そこで、下図のように、点A、Bが同じ方向に同じ量だけ移動(平行移動)した場合を考えます。
有向線分ABとA'B'は当然同じ大きさ、同じ向きになります。ただし、線分が存在する位置がちがうため、
“有向線分AB≠有向線分A'B'”になります。
それに対し、ベクトルでは“ベクトルAB=ベクトルA'B'”として扱います。
それは、ベクトルABとベクトルA'B'を成分表示するとまったく同じになるからです。
つまり、ベクトルと有向線分は同じではないことになります。
ベクトルは、大きさと向きが同じ有向線分(位置が違っても良い)を、すべて同じものとして扱います。
*)単なる数の組を数ベクトル、有向線分によって表すベクトルを
幾何ベクトルと区別することがあります。
1.3.ベクトルとスカラー
ベクトルとは前述のとおり、大きさと方向を表す量になります。
そしてベクトルの表現は、(1.1-1)式のように次元数分の成分を持った数の組で表されます。
それに対し、大きさだけで表す量を
スカラーと呼びます。
大きさしか表しませんからスカラーの次元は1次元になります。
(1.1-1)式を1次元表記すると、一次元ベクトルとして次のように表せます。
こう書くと何か深い意味があるように見えますが、何のことはなく
「スカラーとはただ単なる数」です。
ベクトルとスカラーの決定的な違いは、座標系によってその値が変化するかどうか?です
(手っ取り早く見るには行列式を掛けてみるのが良いでしょう)。
ベクトルは座標系によってとる値は変化しますが、スカラーは変化しません。
ここで、ベクトルとスカラーの具体的な物理量の例について見てみます。
ベクトルとは大きさと方向を持つ量ですから、次のようなものが挙げられます。
速度、加速度、力、運動量、電場、磁場・・・
それに対し、スカラーは大きさのみを持つ量ですから、次のようなものが挙げられます。
質量、温度、摩擦係数、エネルギー、電荷量、抵抗、光速・・・
1.4.ベクトルの演算法則
ベクトルは、以下に示す演算法則が定義されています。
ここで、重要なベクトルを定義しておきます。
(a)零ベクトル
すべての成分が0であるベクトルを
零ベクトルと呼び、
oで表します。
(b)単位ベクトル
大きさが1のベクトルを単位ベクトルと呼び、
一般的にeを用いて表します。
前述の演算法則(1)~(3)に従い、次の定理が成り立ちます。
二つのベクトル
a、
b、
スカラーα、βとします。
これらを幾何学的に見ると、次のような図になります。
(定理2(ii)、(iii)は省略)
また、成分がすべて実数のみのベクトルを
実ベクトル、
複素数を含むベクトルを
複素ベクトルとよび、
上記定理はどちらでも成り立ちます。