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3.仮想仕事の原理

3.1.仮想仕事の原理

質点が、作用している合力Faによってつり合い状態=平衡状態にあるとき、次式が成り立ちます。
\[ \bf{F_a} = \bf{0} \tag{3.1-1} \]
この平衡状態から、質点に任意の微小変位δrを与えても、平衡点にある質点に作用する力Faによってなされる仕事は“0”のままです(接線の傾き=0)。
\[ \bf{F_a} \cdot \delta \bf{r} = F_{ax} \delta x + F_{ay} \delta y + F_{az} \delta z \tag{3.1-2} \]
このように、平衡状態の質点に微小変位δrを与えても質点に働く仕事Wが“0”のままであることを仮想仕事の原理、微小変位δr仮想変位、仕事Wを仮想仕事といいます。

3.2.平衡条件

本節では、質点が平衡状態にあるときの座標を特定する方法について見ていきます。

3.2.1.曲面上の平衡条件

今、下式で表す既知の滑らかな曲面上に質点が束縛されているとします。
\[ f(x, y, z) = 0 \tag{3.2.1-1} \]
このとき曲面との間に摩擦はないものとします。
平衡状態にある質点に作用する合力Faは、曲面からの垂直抗力Rとそれ以外の力Fの合成となります。
\[ \bf{F_a} = \bf{F} + \bf{R} = \bf{0} \tag{3.2.1-2} \]
このとき、平衡状態にある質点を曲面に束縛した状態で、仮想変位δrを与えます。
図3.2.1-1 平衡状態から仮想変位する質点
図3.2.1-1 平衡状態から仮想変位する質点
すると仮想仕事の原理(3.2.1-2)式より、
\[ ( \bf{F} + \bf{R} ) \cdot \delta \bf{r} = \bf{0} \tag{3.2.1-3} \]
ところで、垂直抗力は曲面と垂直な関係にあるため仕事をしません。 よって、
\[ \bf{F} \cdot \delta \bf{r} = F_{x} \delta x + F_{y} \delta y + F_{z} \delta z = 0 \tag{3.2.1-4} \]
また、仮想変位を与えても質点は曲面に束縛されているため、(3.2.1-1)式を満足します。
\[ f(x + \delta x, y + \delta y, z + \delta z) = 0 \tag{3.2.1-5} \]
ここで関数fの変分δfを計算します。
\[ \begin{eqnarray} \delta f & = & f(x + \delta x, y + \delta y, z + \delta z) - f(x, y, z) \\ & \simeq & \frac{\partial f}{\partial x} \delta x + \frac{\partial f}{\partial y} \delta y + \frac{\partial f}{\partial z} \delta z \end{eqnarray} \]

(テイラー展開して二次以上の項を無視)

\[ \therefore \frac{\partial f}{\partial x} \delta x + \frac{\partial f}{\partial y} \delta y + \frac{\partial f}{\partial z} \delta z = 0 \tag{3.2.1-6} \]
このとき、質点は曲面に束縛されているので、その仮想変位δr=(δx,δy,δz)のうち任意の2つは独立変数として扱え、残り1つは(3.2.1-6)式によって決定されます。 独立変数選択の任意性から、ここではδxとδyを独立変数として扱います。 すると、δx、δyが独立変数であることから、(3.2.1-4)式と(3.2.1-6)式のδzを消去することで、δxとδyに関する恒等式を作ることが出来ます。 このときラグランジュの未定乗数法を用いると便利です。
今δzを消去するための関数λを設定し、(3.2.1-4)+(3.2.1-6)×λを計算します。
\[ \left( F_x + \lambda \frac{\partial f}{\partial x} \right) \delta x + \left( F_y + \lambda \frac{\partial f}{\partial y} \right) \delta y + \left( F_z + \lambda \frac{\partial f}{\partial z} \right) \delta z = 0 \tag{3.2.1-7} \]
λはδzの項を消去するために設定された関数のため、
\[ \left( F_z + \lambda \frac{\partial f}{\partial z} \right) \delta z = 0 \tag{3.2.1-8} \]
が成立することになります。 すると、(3.2.1-7)式は次のように簡単になります。
\[ \left( F_x + \lambda \frac{\partial f}{\partial x} \right) \delta x + \left( F_y + \lambda \frac{\partial f}{\partial y} \right) \delta y = 0 \tag{3.2.1-9} \]
さらにこの式はδx、δyに関する恒等式になるため、次の関係式が成立します。
\[ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} F_x + \lambda \displaystyle \frac{\partial f}{\partial x} = 0 \\ \\ F_y + \lambda \displaystyle \frac{\partial f}{\partial y} = 0 \end{array} \right. \end{eqnarray} \tag{3.2.1-10} \]
以上をまとめ、次の4つの連立方程式を解くことで、つり合い位置(x,y,z)とλが求まります。
\[ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} f(x, y, z) = 0 \\ \\ F_x + \lambda \displaystyle \frac{\partial f}{\partial x} = 0 \\ \\ F_y + \lambda \displaystyle \frac{\partial f}{\partial y} = 0 \\ \\ F_z + \lambda \displaystyle \frac{\partial f}{\partial z} = 0 \end{array} \right. \end{eqnarray} \tag{3.2.1-11} \]
また、(3.2.1-2)式を思い浮かべると、(3.2.1-11)式の左辺第二項は垂直抗力の各成分になっていることがわかります。 そこからλを求めることが出来ます。
\[ \lambda = \pm \frac{\bf{R}} {\sqrt{ \left( \frac{\partial f}{\partial x} \right)^2 + \left( \frac{\partial f}{\partial y} \right)^2 + \left( \frac{\partial f}{\partial z} \right)^2 }} \tag{3.2.1-12} \]
このように、
  • 束縛力を考慮しないで(3.2.1-11)式から自動的に平衡条件を求められること
  • (3.2.1-11)式から即座に束縛力Rが算出できること
が仮想仕事の原理を用いる利点になります。
また、今回は外力既知として平衡点の位置を求めましたが、平衡点を既知として外力を求めることも出来ます。

3.2.2.曲線上の平衡条件

今度は質点が、下式で表す曲線に束縛されているとします。
\[ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} f(x, y, z) = 0 \\ g(x, y, z) = 0 \end{array} \right. \end{eqnarray} \tag{3.2.2-1} \]
3.2.1項同様、曲線からの束縛条件を破らないで仮想変位δr=(δx,δy,δz)を与えれば(3.2.1-6)式と同形の結果が得られます。
\[ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \displaystyle \frac{\partial f}{\partial x} \delta x + \frac{\partial f}{\partial y} \delta y + \frac{\partial f}{\partial z} \delta z = 0 \\ \displaystyle \frac{\partial g}{\partial x} \delta x + \frac{\partial g}{\partial y} \delta y + \frac{\partial g}{\partial z} \delta z = 0 \end{array} \right. \end{eqnarray} \tag{3.2.2-2} \]
上式は、3変数(x,y,z)に対し束縛条件が2つあるので、独立変数は任意の1つになります。 そこで、δy、δzを消去してδxの係数に関する恒等式を作ることになります。 ここでもラグランジュの未定乗数法を用います。 任意関数λ(fの式)、μ(gの式)を設定し、(3.2.2-2)式にそれぞれを掛け、(3.2.1-4)式を用いて変形します。
\[ \bf{F} \cdot \delta \bf{r} = F_{x} \delta x + F_{y} \delta y + F_{z} \delta z = 0 \tag{3.2.1-4} \] \[ \begin{eqnarray} \left( F_x + \lambda \frac{\partial f}{\partial x} + \mu \frac{\partial g}{\partial x} \right) \delta x & + & \left( F_y + \lambda \frac{\partial f}{\partial y} + \mu \frac{\partial g}{\partial y} \right) \delta y \\ & + & \left( F_z + \lambda \frac{\partial f}{\partial z} + \mu \frac{\partial g}{\partial z} \right) \delta z = 0 \end{eqnarray} \tag{3.2.2-3} \]
λ、μはδy、δzを消去するために導入されたもののため、
\[ \begin{eqnarray} & F_y + \lambda \frac{\partial f}{\partial y} + \mu \frac{\partial g}{\partial y} & = 0 \\ \\ & F_z + \lambda \frac{\partial f}{\partial z} + \mu \frac{\partial g}{\partial z} & = 0 \end{eqnarray} \]
を満たします。 これによりδxの恒等式ができるため、
\[ F_x + \lambda \frac{\partial f}{\partial x} + \mu \frac{\partial g}{\partial x} = 0 \]
以上をまとめ、次の5つの連立方程式を解くことで3つの未知変数とλ、μが求まります。
\[ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} f(x, y, z) = 0 \\ \\ g(x, y, z) = 0 \\ \\ F_x + \lambda \displaystyle \frac{\partial f}{\partial x} + \mu \frac{\partial g}{\partial x} = 0 \\ \\ F_y + \lambda \displaystyle \frac{\partial f}{\partial y} + \mu \frac{\partial g}{\partial y} = 0 \\ \\ F_z + \lambda \displaystyle \frac{\partial f}{\partial z} + \mu \frac{\partial g}{\partial z} = 0 \end{array} \right. \end{eqnarray} \tag{3.2.1-11} \]

参考文献