3.3.応力テンソル
ここでは応力を数式化していきます。
物体を体積素片\( dV \)で分割すれば、各体積素片と物体全体に働く力は単位体積当たりの力ベクトルを\( \bf{ f } \)を用いて次式で表せます。
\[
d \bf{ F } = \bf { f } dV
\quad
\bf{ F }
= \int \bf { f } dV
= \left( \int f_i dV \right)
\tag{3.3-1}
\]
\( \bf{ F } \)はベクトルなのでx、y、z方向の3成分を持ち、それぞれが直交しているため各成分は独立に決まります。
そこでx成分のみに着目して話を進めれば、残りy、zについても同様に成り立ちます。
(3.3-1)式の体積分は、数学の定理(ベクトル解析:ガウスの定理)によって面積分に変換できます。
このとき新しいベクトル\( \sigma_x \)を導入して
\[
\begin{eqnarray}
\int f_x dV
&= \int \nabla \bf{\sigma_x} dV \\
&= \oint \bf{\sigma_x} \cdot d \bf{S} \\
&= \oint \sigma_{ik} dS_i \\
\end{eqnarray}
\tag{3.3-2}
\]
とできます。
(3.3-2)式の右式から\( \sigma_x \)は[N/m2]の単位を持つベクトルであり、応力の意味を持ちます。
この\( \sigma_x \)をx軸方向の応力ベクトルと呼びます。
なお、応力ベクトル\( \sigma_x \)は必ずしも面に垂直な方向のみ作用するわけではありません。
そこで、面に垂直な方向(面外方向)の応力を
法線応力、
面内方向の応力を接線応力と呼んで区別します。
さて、上述の内容はy、z軸方向についても成り立つので(3.3-2)式を一般化します。
\[
\int f_o dV
=
\oint \sigma_{ij} dS_j
\tag{3.3-3}
\]
\( \sigma_{ij} \)は9個の成分を持ち二階のテンソルになることから、
応力テンソルと呼びます。
\[
\sigma
= ( \sigma_{ij} )
= \begin{eqnarray}\left(
\begin{array}{ccc}
\sigma_{xx} &
\sigma_{xy} &
\sigma_{xz} \\
\sigma_{yx} &
\sigma_{yy} &
\sigma_{yz} \\
\sigma_{zx} &
\sigma_{zy} &
\sigma_{zz}
\end{array}
\right)\end{eqnarray}
\tag{3.3-4}
\]
(おそらくこの説明は数学に頼りすぎていて現象的にわかりにくいと思いますので、別途補足説明したいと思います。)
次に、応力テンソルが対称テンソルであることを示します。
物体内のある体積要素に働く力のモーメントに着目し、物体の体積素片\( dV \)に作用する力のモーメントを計算します。
\[
( F_i dV ) x_j - (F_j dV) x_i
= ( F_i x_j - F_j x_i ) dV
\tag{3.3-5}
\]
物体全体に作用する力のモーメントはこれを全体積にわたって積分すればよく、
\[
M_{ij}
= \int ( F_i x_j -F_j x_i ) dV
\tag{3.3-6}
\]
となります。\( F_i \)と応力テンソル\( \sigma_{ik} \ \)の間には
\[
F_i = \nabla \bf{\sigma_i}
= \frac{\partial \sigma_{ij}}{\partial x_j}
\tag{3.3-7}
\]
が成り立つので((3.3-2)式参照)、(3.3-6)式は部分積分と各座標軸の直交性を考慮して次のように書き換えられます。
\[
\begin{align}
M_{ij}
&= \int \left(
\frac{ \partial \sigma_{ik} }{ \partial x_k } x_j
- \frac{\partial \sigma_{jk}}{\partial x_k} x_i )
\right) dV
\\
&= \int \frac{ \partial }{ \partial x_k} ( \sigma_{ik} - \sigma_{jk} ) dV
- \int \left(
\sigma_{ik} \frac{ \partial x_j }{ \partial x_k}
- \sigma_{jk} \frac{ \partial x_i }{ \partial x_k}
\right) dV
\\
&= \int \frac{ \partial }{ \partial x_k} ( \sigma_{ik} - \sigma_{jk} ) dV
- \int \left(
\sigma_{ik} \ \delta{jk} - \sigma_{jk} \ \delta_{ik}
\right) dV
\end{align}
\]
\[
\left(
\because
\begin{eqnarray}
\frac{\partial x_i}{\partial x_k} = \delta_{ik} =
\begin{cases}
1 \quad (i=k) \\
0 \quad (i \neq k)
\end{cases}
\end{eqnarray}
\right)
\]
右辺第二項の被積分関数内にある\( \sigma_{ik}, \ \delta_{jk} \ \)は、結局\( \sigma_{ik} \delta_{jk} = \sigma_{ij} \ \)の関係を持ちます。
この関係とガウスの定理を用いて上式はさらに書き換えられます。
\[
\begin{align}
M_{ij}
&= \int \frac{ \partial }{ \partial x_k } ( \sigma_{ik} x_j - \sigma_{jk} x_i ) dV
- \int ( \sigma_{ij} - \sigma_{ji} ) dV
\\
&= \int \frac{ \partial }{ \partial x_k } ( \sigma_{ik} x_j ) dV
- \int \frac{ \partial }{ \partial x_k } ( \sigma_{jk} x_i ) dV
- \int ( \sigma_{ij} - \sigma_{ji} ) dV
\\
&= \oint \sigma_{ik} x_j df_k - \oint \sigma_{jk} x_i df_k
- \int ( \sigma_{ij} - \sigma_{ji} ) dV
\\
&( \because ガウスの定理により体積分を面積分に変換 )
\\
&= \oint ( \sigma_{ik} x_j - \sigma_{jk} x_i ) df_k
\end{align}
\tag{3.3-8}
\]
物体全体に働く力は物体表面に沿った面積分のみで表せます。
従って、力のモーメントもまた物体表面に沿った面積分のみで表せなければなりません。
つまり、(3.3-8)式の右辺第二項は恒等的に0でなければならず、
\[
\sigma_{ij} = \sigma_{ji}
\]
を満足しなければなりません。これは応力テンソルが対称であることを示しています。