4.材料選定の基礎知識
3章の材料分類とその特徴だけでは、まだまだ材料を選定することはできません。
最終目標は使う材料を決定することです。
本章ではそのために必要となる材料の知識について説明していきます。
4.1.金属
金属といっても様々なものがあり、その特徴は千差万別です。
まずは、金属の主な分類を表4.1-1のように行います。
表4.1-1 金属の主な分類
鉄系金属 |
鋳鉄 |
ねずみ鋳鉄、ダクタイル鋳鉄 |
鋳鋼 |
|
鋼 |
炭素鋼 |
|
特殊鋼 |
合金鋼 |
Scr、SCM、SMnなど |
工具鋼 |
炭素工具鋼、合金工具鋼、ダイス鋼、ハイス鋼 |
特殊用途鋼 |
ステンレス鋼、ばね鋼、軸受鋼、磁石鋼 |
非鉄系金属 |
軽金属系 |
アルミ合金 |
鋳造材 |
|
ダイカスト材 |
|
展伸材 |
加工硬化合金、熱処理硬化合金 |
チタン合金 |
α合金、β合金、α+β合金 |
マグネシウム合金 |
|
ベリリウム合金 |
|
重金属系 |
銅合金 |
真鍮、青銅など |
コバルトクロム合金 |
|
タングステン |
|
金 |
|
この分類のうち、使用頻度が高いと思われる材料の主な特徴について表4.1-2に示します。
表4.1-2 金属の分類による特徴比較(目安)
特徴 |
鉄鋼 |
ステンレス |
アルミ 合金 |
チタン 合金 |
銅 合金 |
比重 |
7.8 |
7.8 |
2.7 |
4.5 |
8~9 |
強さ |
熱処理で ○ |
熱処理で ○ |
×~○ |
合金化で ○ |
×~○ |
硬さ |
熱処理で ○ |
熱処理で ○ |
× |
×~○ |
× |
耐腐食性 |
× |
○ |
○ |
○ |
△ |
導電性 |
○ |
○ |
○ |
× |
○ |
熱伝導性 |
○ |
○ |
○ |
× |
○ |
熱膨張 |
×(大) |
× |
× |
○(小) |
× |
耐熱性 |
△ |
○ |
× |
△ |
× |
切削性 |
○ |
△~○ |
×~○ |
× |
×~○ |
値段 |
○ |
△~○ |
×~○ |
× |
× |
主な特徴 まとめ
|
一番汎用性の高い材料。
熱処理によって硬く、強くできる。
ただし、錆びるし重い。
|
鋼の耐食性を向上させたもの。
耐熱性にも優れる。
鋼の一種ゆえ強度、硬度とも優れている。
|
軽いのが一番の特徴。
流通性も良い。
ジュラルミンは比強度高い。
|
比強度が高く、耐食性にも優れるが、値段も高い。
強度の必要な箇所で、断熱材として使用する。
|
導電性、熱伝導性、展延性に優れる。
純銅の強度は低いが、銅合金には優れた強度を持つものもある。
|
上表の特徴は、合金によって必ず当てはまるものではありませんが、
材料のおおむねの特徴をつかんでおくことが、材料の選定には非常に重要になります。
例えば、入手性、加工性が良いもので、とにかく軽くてある程度強い材料を選びたい、となれば、
アルミ合金を即座に選択することが出来ますし、
とにかく安くて強いものであれば何でも良い、となれば鉄系材料を選択すればよいことになります。
次に、主な金属材料の特徴について見ていきます。ここでもあまり細かな説明はせず、大枠が捕らえられるようにします。
4.2.鉄系材料
ここでは、ステンレス鋼(次項で説明)以外の鉄系材料の特徴について見ていきます。
鉄系材料を選定する際に一番最初に考えるのは、鋳物で作るか?それ以外の方法で作るか?になると思います。
その後、鋳物で作るにせよ、それ以外で作るにせよ、材料選定で重要になるのが、炭素(C)含有量になります。
炭素含有量による分類は次のとおりです。
表4.2-1 鉄系材料の炭素含有量による分類
炭素量
| 0.04%以下
| 0.04~2.1%
| 2.1%以上
|
分類 |
鉄 |
鋼 |
鋳鉄 |
基本則としては、「炭素量が増えると鉄は硬くなり、あまりたくさん入るともろくなる」です。
炭素量の丁度良いものが鋼にあたります。
また、鋳鉄について丁度良い量以上に炭素を混ぜる理由は、融点が下がることで鋳造性が向上することにあります。
また、その性質もガラリと変わりますが、ここでの説明は割愛します。
4.2.1.鋳鉄と鋳鋼
鋳鉄と鋳鋼の違いは炭素含有量の違いです。それによって、材料の性質は異なってきます。
表4.2.1-1に鋳鉄と鋳鋼の主な特性差を記します。
表4.2.1-1 鉄系鋳造材の比較
特徴
| 鋳鉄
| 鋳鋼
|
C含有量 |
2.1%以上 |
0.2~2.1%程度 |
強さ |
×~○ |
○(熱処理後) |
もろさ |
× |
○ |
コスト(鋳造性) |
○ |
× |
使用例 |
一般工業製品等の 小~大型製品 |
強靭さが必要な 巨大製品 |
4.2.2.鋼
鋼にはたくさんの種類があります。
まずは、よく用いられる、あるいはよく耳にする鋼の材料記号を列挙します
(当然ながら実際はもっと数多くの種類があります)。
表4.2.2-1 金属の分類による特徴比較(目安)
種類 |
記号 |
主な 加工方法 |
備考 |
一般構造用 圧延鋼材 |
SS(板) SS400が一般的 |
切削 |
一般的に流通しているもので、入手しやすく値段も安い |
圧延 軟鋼板 |
SPH(熱間) SPC(冷間) |
板金 プレス 熱処理可 |
構造用 炭素鋼 鋼管 |
STK(丸パイプ) STKR(角パイプ) |
板金 曲げ |
構造用 炭素鋼 |
S_C(棒) S20C~S50Cが一般的 数字の20はC含有量0.20%の意味 |
切削 鍛造 熱処理 |
一般的に流通しているもので、入手しやすく値段も安い 生材、調質材があり、必要に応じて熱処理を行う |
合金鋼 |
SCr(クロム鋼) SCM(クロムモリブデン鋼) |
鍛造 熱処理要 |
熱処理材で、高硬度、高強度 |
特殊鋼 |
SK(工具鋼) SUJ(ベアリング鋼) |
切削 熱処理要 |
熱処理材で、高硬度、高強度かつ特殊用途に対応 |
さて、鋼を使う際、硬度や強度が必要なときは、焼入れすることを前提に考えます。
鋼はC含有量によって焼きの入りやすさが変わります。それによって、材料の硬度、強度、じん性などが変わります。
ここからは炭素含有量に着目して話を進めます。
焼入れでは2つのパラメータに注目します。
(1)焼入れ硬さ
焼入れ硬さは炭素含有量のみに支配されます。
詳細に言えば、炭素含有量が0.6%以下なら炭素が多いほど硬くなり、0.6%以上では硬さは一定になります。
炭素鋼でも合金鋼でもそれは変わりません。
(2)焼入れ深さ
焼入れ深さは、炭素含有量による影響が最も大きいですが、そのほかの元素による影響も存在します。
焼入れは、材料表面から熱が入りますので、材料中心部までは焼きが入りません。
そこで、SCrやSCMといった合金鋼のように焼きが入りやすくなる元素を混ぜることで、焼きが深く入るようにしています。
材料の内部硬度も上げたい場合は、炭素量が多い材料をずぶ焼します。
その場合に使用する材料は、S50C~S60Cなど高炭素量の炭素鋼、SK5、SKD11、SUJ2などの特殊鋼を使います。
それに対し、表面硬度だけ上げたい場合は、炭素量の少ない材料に浸炭処理を行います。
その場合に用いる材料は、S10C~S20CやSCM415~SCM420といった材料を使います。
図4.2.2-1 焼入れ
(3)引張り強さ
機械設計において一番知りたいのはその材料強度だと思います。
材料の引張り強さと硬度との間には次のような関係があります。
鋼の引張り強さは硬さによって決まり、ある範囲において線形関係にある
ただし、硬すぎると弱くなります。
この表現からもわかるように、材料強度を上げるには、鋼を焼入れする必要があります。
また、炭素含有量で焼入れ硬さが決まることから、炭素鋼でも合金鋼や特殊鋼でも硬度が同じなら引張り強さは同じになります。
例えば、炭素含有量0.2%のものの場合、炭素鋼であるS20Cと合金鋼であるSCM420では硬度が同じなら引張り強さも同じになります。
さて、引張り強さと硬度の関係を示した表は、
硬度換算表ページまたは
ソフトウエア/機械設計ソフトウエア/硬度換算表
にExcelファイルがありますので、そちらをご確認ください。
以上をまとめると、次のような使い分けが出来ると思います。
図4.2.2-2 鋼の選定(例)
4.3.非鉄金属
4.3.1.アルミ系材料
アルミ合金も鉄系材料と同じように一番最初に考えるのは、鋳物で作るか?それ以外の方法で作るか?になると思います。
ダイカスト材(ADC~)は主に金型を用いた高圧鋳造用の材料であり、鋳造材(AC~)は砂型等あまり圧力がかけられないときに使用する材料です。
これらの材料にも、その用途に応じて様々な特性を持つものがありますが、ここでは説明は割愛します。
切削や鍛造、プレスなどで使用する材料は展伸材になります。
展伸材は、熱処理型合金(=熱処理硬化合金)と非熱処理型合金(=加工硬化合金)の2種類に分類されます。
また、それらの中でアルミに混ぜる元素によって、さらに分類されます。
表4.3.1-1 アルミ合金展伸材の特徴比較
合金処理 |
合金類 |
組成 |
特徴 |
加工 硬化 (-H*) |
1000系 |
純Al |
強度が低いので構造物には適さない。
耐食性、加工性、電気および熱伝導性が良い。
家庭用品や放熱材、送電材料などに使用。 |
3000系 |
Al-Mn系 |
1000系の耐食性を保持したまま強度を少し向上。
容器や建材などに使用。 |
4000系 |
Al-Si系 |
Si添加による熱膨張率抑制と耐磨耗性の改善。
鍛造ピストンなどに使用。 |
5000系 |
Al-Mg系 |
強度はあまり高くないが、構造材料としても使用する。プレス成形性、溶接性、耐食性に優れる。 |
熱処理 硬化 (-T*) |
2000系 |
Al-Cu-Mg系 |
強度に優れるが、耐食性は良くない。溶接性も悪い。
2017:ジュラルミン、2024:超ジュラルミン |
6000系 |
Al-Mg-Si系 |
強度、耐食性良好で、特に強度はSS400同等。
加工性は良いが、溶接性は良くない。 |
7000系 |
Al-Zn-Mg系 |
アルミ合金で最強の強度を持つが、高温強度は低い。
溶接可能。7075:超々ジュラルミン |
機械設計においては5000系、2000系、6000系、7000系を主に使用します。
アルミ合金展伸材の選定は、次のような形で使い分けを考えます。
図4.3.1-1 アルミ合金の選定(例)
A5052-Oの-Oは生材(熱処理や加工硬化処理をしていない状態)を意味します。
なお、その他熱処理の記号T-**や加工硬化処理H-**については、本章での説明を割愛します。