1.材料選定の難しさ
機械設計を行う上で材料選定は非常に重要です。
材料選定を誤れば不具合が発生し、ひどい時には致死的な事象を発生する恐れがあります。
そのため、材料選定には細心の注意を払わなければなりません。
ところが、材料の選定は非常に難しく、設計上の悩みの種になります。
その難しさの最大の要因は、種類の多さからくるものです。中には同じような性質のものもあり、一体どの材料を選べばよいのか?訳がわからなくなることがしばしばあります。
また材料選定に、経験によるノウハウが必要な場合があります。
例えば、相性の悪い金属同士を組み合わせてしまって、その接触部がみるみる磨耗してしまった、ということがあります。
こういったことは金属特性を表す数値からはなかなか見出せるようなものではありません。
こういう場合は経験が重要になってきます。
本ページでは、材料選定において基本となるキーワードと、材料のおおまかな特性を把握することで、
難しい専門知識や経験がなくてもとりあえずは設計できるレベルを目指します。
2.材料選定のキーワード
材料を選定する際、さまざまなことを考慮に入れなければなりません。
表2-1に、材料選定の際に注意する主な特性を列挙します。
ただし、ここで挙げた内容を完全に覚える必要はありません。
大枠のイメージさえ抱ければ十分です。
表2-1 材料選定のキーワード
考慮する性質 |
具体的内容の例 |
力学的性質 |
比重、強度、剛性、じん性、比強度、摩擦特性など |
熱的性質 |
耐熱性、熱伝導性(断熱性)、体積膨張性、変態点など |
電気的性質 |
電気伝導性、帯電性、絶縁性、磁性など |
光学的性質 |
反射率、透過性、色など |
耐食/耐候性 |
一般耐食性、耐薬品性、電食性、応力腐食、膨潤、耐紫外線など |
加工/表面処理性 |
加工性(切削性、鋳造性、鍛造性など)、溶接性、表面処理性など |
コスト/流通性 |
入手しやすさ、値段、品質安定性、材料のサイズなど |
材料を選定する際、これら多数のキーワードの中から必要なものをピックアップし、それらに優先順位をつけることが重要になります。
ただ優先順位の付け方は、設計しているものや業界等によって変わりますので万能な法則性はありません。
また、機能的にも経済的にも不具合のない材料選択が正解であって、その答えは一つとは限りません。
その理由は設計者の意思が入るからです。
そこが設計の醍醐味でもあります。
3.材料の大分類
機械設計で用いられる材料は表3-1ような大きな区分けで分類されます。
表3-1 材料の大分類
金属 |
鉄系金属 |
鋼、ステンレス鋼、鋳鉄、鋳鋼など |
非鉄金属 |
アルミ、銅、チタン、マグネシウムなど |
非金属 |
無機化合物 |
セラミックス |
アルミナ、窒化珪素など |
有機化合物 |
プラスチック |
熱硬化性、熱可塑性など |
ゴム |
合成ゴム、天然ゴムなど |
複合材料 |
CFDRP、GFRPなど |
さらにこの図は細かく分類されます。
ここで重要なのは、どの材料がどこの分類に入るか?を詳しく知ることではなく、各分類が持つおおまかな特徴を把握することです。
そこで、表3-1に挙げた分類の特徴比較(目安)を行います。
表3-2 分類による特徴比較(目安)
特徴 |
金属 |
無機化合物 (セラミックス) |
有機化合物 |
重さ |
○~× |
○~△ |
◎ |
強さ |
○ |
○ |
× |
硬さ |
○ |
◎ |
× |
割れ難さ |
◎ |
× |
×~○ |
腐食し難さ |
×~○ |
◎ |
○ |
耐薬品性 |
×~○ |
○ |
○ |
熱伝導性 |
○ |
× |
× |
導電性 |
○ |
× |
× |
耐熱性 |
△~○ |
◎ |
× |
主な特徴 のまとめ
|
強くて硬いものが多く、割れにくい。
様々な用途に合わせて合金が作られている。
加工性、入手性が良く、機械設計において最もよく使用される。
|
硬くて熱に強いが割れやすい。
急激な温度差を与えると割れる。
化学的に安定な材料なので、腐食や耐薬品性に優れる。
それと同時に、電気や熱伝導性は悪くなる。
加工性は良くない。
|
軽くて変形しやすい物が多い。
絶縁性がある。
強度や耐熱性はあまり望めない。
また、太陽光など紫外線にあて続けると劣化する。
プラスチックなら加工性は良い。
|
目安としたのは、金属でもものすごく軽いもの(ベリリウムやリチウム)があったり、プラスチックでも金属並の比強度を持つものがあったり、導電性プラスチックがあったりしますので、すべてがこの分類に当てはまるわけではありません。
今の目標は、膨大な材料の中から適切なものを選定することです。
大まかな分類を知っていれば、そこで最初のふるいにかけ、検討する材料の範囲を狭めることが出来ます。
それによって、使える材料の絞込みが可能になります。
ここで挙げた特徴は、普段身近なもので感じ取れるようなものばかりですので、イメージはつきやすいと思います。
このようなざっとした特長を掴んでおくことが、材料選定において、金属にすべきか?それとも非金属にすべきか?
の迅速な判断につながります。