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3.3D設計

3.1.3D設計のメリット

3D-CAD(Computer Aided Design)が普及してかなりの時間が経過しましたが、3D-CADを上手く使いこなせていないケースによく出くわします。
上手くいかないケースのほとんどが、「モデルづくりが目的」となってます。 3D-CADは確かに、実物をバーチャルな世界で具現化できます。 しかし、3Dデータが持つ情報はそれだけではありません。 例えば次のようなものが挙げられます。
  • 表面積や体積といった幾何特性
  • 質量や慣性テンソルといった質量特性
  • 材質情報
  • 設計者が想定している製法(フィーチャーの作り方やツリー構成によって実現可能)
  • 寸法/幾何公差や表面処理
  • Assemblyでの部品構成
  • 組立方法
  • 運動特性(剛体前提ですが、スケルトンを用いることによって可能)
  • デザイン/カラーリング(レンダリングによって可能)
このように非常に多くの情報を1つのデータに集約できます。
また、3DデータはCAE(Computer Aided Engineering)やCFD(Computational Fuid Dynamics)、CAM(Computer Aided Manufactureing)といった製品に関する一連の作業との連携、製造設備設計や工程プロセスシミュレーションといった生産工程との連携、他にも製品取説用の図やプレゼン、パンフレット用の図として活用できます。 さらには一度作った製品データをカタログ化したり、データを流用することで一からモデルをつくることなく改修だけで設計を済ませることも可能で、設計工数を大幅に削減できます。
従って、3Dデータをただのモデルデータとして扱うのは非常にもったいないことが分かります。

このように、データの流用性や製品に関する多種多用なデータが3Dデータに集約されることで、設計者には次のようなメリットが得られます。
  1. ヒューマンエラーの削減
  2. 設計効率化
  3. 設計精度向上
  4. 形状表現の緻密化
このようなメリットを享受するには、3D-CADを単なるモデリングツールと捉えず、その本質を理解する必要があります。

3.2.3D設計の本質

3Dデータは形状だけではない非常に多くの情報を持っていることを前節で述べました。 その一例を見ただけでも、3Dデータは製品に関するあらゆる情報を持っている、といって過言ではないほどです。 その中の1つとして形状情報は含まれているだけであって、それは設計情報の一部にすぎません。 これこそが3D設計の本質に迫る重要な考え方です。

3Dデータにあらゆる製品情報が含まれる、ということは設計者以外にも重要な情報が含まれていることになります。 つまり、3Dデータはあらゆる部署の人たちと“共有”することによってその価値が高まります。 前節で見たように、解析を行う人たち、生産工程の人たち、営業の人たち、別プロジェクトの設計者たちにとって活用できるデータになります。 データを共有するということは、各人が“同時”に同じ情報を得ることができる、ということでもあります。
またデータを共有することで、様々な部署に人たちと即座に議論を交わしながら設計を進めることができます。 その結果、3Dデータを介して組織の横通しが強くなります。 つまり、3Dデータが組織間の“連携”を強くします。
さらに、“共有”と“連携”を滞りなく行うためには、3Dデータの“管理”が必要になります。
このように一つのデータを共有し、様々な部署の人たちが同時に設計を進めることを“コンカレントエンジニアリング”と呼びます。

以上の内容から、3D設計の本質は次の3ワードに集約されます。
(1)共有(2)連携(3)管理
ところで、上記3つのキーワードの中で“管理”は少し他の2つと毛色が違います。 “共有”と“連携”は、設計を進めていくうえで3Dデータを活用すると自然と出来てくるものですが、“管理”はその“共有”と“連携”をいかに上手に、効率的に行えるか?ということを決めていく作業が必要になります。
実は、この管理方法を規定するのが非常に大変で、ここを何も決めずに開発を進めてしまうと後でとんでもないことにってしまいます。 よくある事例として、設計手戻りが頻発し、モデルの作り直しやアセンブリの再構築など不要な作業が発生してしまいます。 また、管理方法をがんじがらめにしてしまうと今度は設計自由度にまで影響を及ぼし、管理のために設計できない、といった本末転倒な結果を招いてしまいます。
つまり、3D設計のデメリットは「管理規則の決定とその運用」ということになります。
この管理規則の決定は非常に難しく、自前主義で行うのは相当困難です。 利用するCADの得意・不得意にも左右されますので、はじめはCADベンダー等のコンサルティングを受けながら管理規則を作っていく必要があると思います。

3.3.3Dモデリングのポイント

ここでは、3Dモデリングを効率的かつ有効なデータとするためのポイントについて列挙します。

A.Part編

  1. 製品の座標系(原点と軸方向)を用途に応じて統一する
  2. 外部参照は絶対に使わない(ハーネスルーティングは除く)
  3. 同じ寸法を何度も入れる必要がないよう、基準寸法用のフィーチャーを使う(Plane,Point,Axis,Curveなど)
  4. 部品断面をスケッチャーで作りこまない
  5. フィレットや面取りをスケッチャーで書き込まない(フィレット、面取りフィーチャを使う)
  6. モデル修正後のアップデート時、極力関係のないフィーチャが再計算されないようなツリー構成とする
  7. ツリー構成は、用途、製法に応じてグループ化する(両方を極力同時に満たすように検討する)
  8. 不必要なフィーチャー(特にSolid)は残さない
  9. 複数の部品を1つのPartファイルに作りこまない
  10. フィーチャーの命名規則を決める
(1)について、「必ず部品には基準がある」ということを意識する必要があります。 Assembly内のどこに部品を配置するか?、その取付方向はどうするか?を検討するとき、部品のどこを基準にして考えるか?で座標の基準は決まる、と考えておいてよいかと思います(そもそも2D図面を書く際にも必ずどこか基準を設けて描いていたはずです)。 一つの例として、回転体(軸物や歯車など)はZ軸を回転軸としてモデリングする、といった形で決めておくのがよいでしょう。

(2)について、外部参照を使うと一見楽なように思います。ところが「参照先を管理できない」という最大のデメリットが原因で、
  • 異なる製品に流用すると参照先を失う
  • 別の部品を修正したら、全然関係ないところまで修正されてしまうことがある
  • 循環参照を生む要因となる
といったように、ろくなことがありません。 外部参照は“百害あって一利なし”と断言できます。 「一人で設計が完結し、そのデータを流用しない」という制約がない限り、外部参照を絶対に使用してはいけません。

(4)について、スケッチが複雑になればなるほど部品修正時のインパクトは大きくなり、再生時間も長くなります。 例えば軸物を一つのスケッチャーで描き切るよりも複数の円筒フィーチャーで分けて作った方が、後の修正対応は楽にできます(このとき(3)を上手く活用する必要はありますが...)。 円筒の1つを修正しただけなら、その円筒部のみ再生がかかりますが、スケッチャーで描き切っていれば、全体に再生がかかるため時間がかかります。 また拘束の付け方によっては、本来エラーにならなくてよい箇所がエラーになってしまう場合があります(まさに(6)の事例と一致します)。 (5)のフィレットや面取りも同様な理由から、専用のフィーチャーを使って作るべきです。

(6)、(7)について、ツリーに直列的にフィーチャーが並ぶと、不必要なフィーチャーにも再生がかかってしまい時間がかかるだけでなく、不必要なエラーも誘発します。 また、ツリーが汚いとデータを流用するとき非常に扱いづらくなります。 直列に長くなるぐらいでしたら、階層を深くするべきです。 階層を深くしても、その階層ごとに意味を持たせておきそれに対応した名称を与えておけば、見る必要のない場合はその部分のツリーは触らなければよいだけです。 例えば、鋳物部品の加工フィーチャーだけをグループ化しておき、例えば“Cutting”と命名しておけば、ここは加工用のデータが集められている、というのが一目でわかりますし、Cuttingを抑制(非表示)にすれば、鋳物部品の素材形状が即座に得られます。 直列的なツリーではそういうことはできません。また、本当に必要なフィーチャーをツリーから探し出すことすら難しくなり、ハンドリング性を極端に悪くします。 3Dモデルは他人も使う、という前提に立った上で、ツリー構成を決めておく必要があります。

(8)について、特に不要なSolidが残っていると、部品の質量特性算出に影響を及ぼします。 また不必要なファイル容量増加を招きますので、不要なフィーチャーは削除すべきです。

(9)について、これはよく見かけますがちゃんとAssemblyとして作るべきです。 そもそも一つの部品に複数のものを入れ込むと、部品管理上その存在が認識されません(BOM機能が使えません)。 また、質量特性計算においても間違いのもとになります。

(10)について、自分自身にとっても重要なことです。 フィーチャーに名前を付けておけば、それが何を表しているかが分かります(これなんだっけ?となることもありますが...)。 細かく名前を付けると、その作業だけで嫌になるほど時間がとられますが、例えば油路を作った場合は、それを表すフィーチャーに“***_oilpath”と付加するだけで、後で見たとき各段にそのツリー構成の理解が進みます。

B.Assembly編

  1. 部品・サブアセンブリ配置拘束は、MAP・Skelton手法を用いる
  2. 配置拘束は小物部品以外、原則、MAP・Skelton内の座標系と部品・Sub Assemblyの座標系で行う。
  3. 法則性を持ったAssemblyツリー構成とする
  4. 重複部品の表示・非表示方法を決める(質量特性の計算等に影響を及ぼす)
  5. 別案検討用のTemporary Sub Assemblyを準備しておく
  6. ねじ等の小物部品はパターンを使って組み付け、サブアセンブリ化しておく
  7. 可能なら軽量データ化されたモデルをAssemblyに組み込む
(1)、(2)について、MAPは、部品配置用の座標系(座標系を作成する参照フィーチャーを含みます)のみで構成された部品です。 Skeltonは、主に機構部品に対応したMAPで、機構の骨組みを作成した上に、その機構の動きに応じて動く座標系を定義し、その座標系に部品を配置する、といったものです。 部品の配置を一元管理できる、という点でMAP・Skelton手法は優れているといえます。ただし、部品修正に応じた位置変更はできないので、変更ごとにMAP・Skeltonを修正しなければならない手間が発生します。 CADには、部品拘束のために面や軸、点の合致やオフセットなどといった機能がありますが、部品修正に伴い参照フィーチャーをなくした場合、拘束が外れてしまいます。 そこで、部品が持つ基準座標とMAP・Skelton座標を合致させておけば、その参照関係は崩れません。

(5)、(6)、(7)について、Assemblyはたくさんの部品が表示されるため、表示制御は重要になります。 特に検討過程でかなりぐちゃぐちゃの状態のものが入っていると非常に見難く、扱いづらくなります。 また、小物部品を表示する必要のない場合も多々あり、一括で非表示化できれば楽に扱えます。 さらに、Assemblyはたくさんのファイルをメモリに読み込むこと、グラフィックに関しても負荷が高くなることから極力ファイル容量の小さいものを表示させた方がハンドリングが向上します。

C.その他

  1. ファイル命名規則を決める
  2. ファイル用途に応じた保存ディレクトリを決める
  3. ファイルのアクセス権を設定する
  4. 出図モデルは設計データのTemporaryデータと認識しておく(出図モデルが“正”ではない)
これらはデータを共有化するとき、データが何を表しているか?を即座に理解する、データの破壊から守る等といった理由から必要となります。

3.4.CAE

設計を行う上で、強度や剛性の確認、動的挙動の確認、流体を扱う場合は流れや温度の特性等を形状を決めながら確認していきたいところです。 3Dで設計を行っている場合は、そのデータをそのままCAE、CFDに用いることができ、設計過程で上記の確認をとり、対応しながら設計が可能となり、設計精度は飛躍的に向上します。 特に上記が問題で形状を決めかねている場合は、適当な形でもよいのでとりあえず計算してみる、ということが可能となり、悩む時間も解消されます。 また、設計者の負担は増えるものの、手戻りが減り全体としてみれば負担は低減されます。 事前にこれらの状態を把握することで、実機確認試験結果の評価精度やスピードも向上します。

ただし、良いことばかりではありません。
CAEは、それが前提とするモデル(例えば弾性(線形)範囲内とか層流とか)以外のものを計算すると、間違った答えを出力します。 例えば、皿ばねの荷重特性を線形構造解析で行えば、線形の荷重特性が現れます(本来は非線形です)。 あるいは乱流流れなのに層流で解けば、全然異なる流れ場特性を出力します。 また、不適切なMesh設定だと特異点のような場所が出現したり、本来の数値とはかけ離れた値を出してくる場合があります。 このようにCAEの理論をある程度理解しておかなければなりません。
また、適切なモデルを選択したとしてもCAEと実験が不一致になる場合もあります(特にCFDに多いです)。 その場合も、こういう理由であわない、ということが分かっていなければCAEを使っても意味がありません。
CAEにどこまで深く踏み込むか?は、それを扱う人次第ですが、最低限人に説明できる程度の知識を持ち合わせていなければなりません。 CAEのマニュアルは比較的専門的な内容が書かれているため、それを理解しようとするには物理と数学の基礎知識が必要になります。 2章の自然科学の必要性を参考に、どこまで手を出すべきか検討してみてください。

参考文献

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