2.2.押さえておきたい自然科学のポイント
まずは汎用的な話から始めます。
数学の
“集合論”は、日常生活から仕事まで非常に広い範囲で活用できます。
集合論の特徴をざっくり言えば、
- 対象の範囲を明確に絞る
- 似た者同士をうまく分類して一つの集合をつくる
- 分類した集合間の関係性を知る
ということになります。
こう書くと、集合論は
整理整頓と非常に結びつきが強い、と感じとることができます。
例えば散らかった部屋の片づけをするとき、
- 部屋の中の本を片付ける → 対象の範囲を明確に絞る
- 教科書、参考書、漫画、雑誌、その他の本などに分類する → 似た者同士をうまく分類して一つの集合をつくる
- 教科書と参考書は机の棚に、漫画はクローゼットの中に、その他の本は本棚に片づける → 分類した集合間の関係性を知る
もし自分が受験生なら、教科書と参考書は勉強のために使うものですからともに机の上にあるのが便利ですし、漫画があるとすぐに休憩したくなるのでクローゼットの中に隠してしまうことを考えるでしょう。
このようなことは普段から何気なく行っていますが、実は集合論を具体的に活用している事例になります。
仕事でも同様なことが行われているはずです。
例えば、製品・システムのターゲットを絞ることは、対象の範囲を明確に絞ることと同じです。
製品・システムが持つ複数の機能を分類して使いやすいようにまとめることは、似た者同士を分類して一つの集合を作ることと同じです。
それぞれの機能は関連性に応じて他の機能にすぐに移れるようボタンやアイコンが表示されていることは、分類した集合間の関係性を知ることと同じです。
このように、いろいろな観点で集合論を活用してみることをお勧めします。
なお、集合論のお手軽な書籍を以下に紹介しておきますので参考にしてみてください。
次に、本サイトは機械設計者がメインの対象となりますので、機械設計に関する自然科学の押さえておきたいポイントを提案していきます。
機械は物体によって構成され、その機能は機械の運動によって成し遂げられるのが一般的です。
従って、機械設計では
“力学”が特に重要になります。
力学とは「物体の運動に関する法則」をまとめたものです。
機械を動かすために必要な動力(エネルギー)はどの程度必要か?、目的の速さで機械を動かすにはどの程度の力を加えればよいか?などの設計計算を行う際に、力学の知識がなければどうにもなりません。
また、ねじのような単純な部品でも、ねじ面の摩擦力と、ねじが伸びるときに発生する復元力(軸力と呼びます)との関係から、ねじは緩むかどうか?の判断も力学を用いた計算で可能となります。
このように、製品・システムの基本要求を満足できるかどうか?を事前に検討するには力学が必要不可欠であることが分かります。
以下に力学の分かりやすい参考書を紹介します。
また、機械に力を加えれば変形します。その変形を予測するためには連続体力学(特に弾性理論)が必要になります。
これを工学的に言えば
“材料力学”にあたります。
力学は物体を剛体と考えてその挙動を算出するのに対し、材料力学では物体の変形度合いから破壊に至るまでを算出するものです。
ですが、材料力学自体は力学をベースに構築されていますので、結局は力学をまずは押さえておかなければなりません。
以下に材料力学(連続体力学:弾性理論)の分かりやすい参考書を紹介します。
水道や扇風機、エンジンなどといった流体を扱う機械も世の中には数多く存在します。
また流体の抵抗が問題となる車や飛行機、ロケットなどといったものもあります。
従って、設計の対象によっては
“流体力学”が必要になる場合があります。
流体は難しく、特に乱流については未解明な事象が数多く残っています。
従って、理論だけでシステムの成立性を担保するのは非常に困難です。
ですが、その基本法則はニュートンの運動の法則から成り立っています。
結局は力学を学んでおく必要があります。
以下に流体力学の分かりやすい参考書を紹介します。
流体で挙がったエンジンは、ガスの温度上昇による体積膨張を利用してエネルギーを抽出する機械です。
また、機械を動かせばその摩擦によって熱が発生し、焼き付きを起こすことがあります。
その他機械が高温化することによる不具合発生を防ぐため、機械を冷却する必要があります。
このような内容に対しては
“熱力学”が必要になります。
熱力学は、エネルギーの収支勘定、仕事として抽出できる限界等を知る上で必要になります。
以下に熱力学の分かりやすい書籍を紹介します。
以上のように力学を基本として、設計対象に合わせて関連した分野を追加で学んでいく必要があります。
上記以外にも、ものづくりの過程で様々な計測を行う必要があります。
非接触で行う計測のほとんどが電磁気的な信号を利用します。
また計測データの歪みやノイズの影響等を取り除かなくてはなりません。
そのような場合には、電磁気学を学んでおく必要があります。
以下に電磁気学の分かりやすい参考書を紹介します。
ところで、上記の計算を行う上で数学の力を借りなければどうにもなりません。
特に速度、加速度についてはベクトルと微積分の概念を理解する必要があります。
機械的な共振が発生した場合は、その振動ピークがどこに発生しているか?を特定するためにフーリエ変換が必要になる場合があります。
また、熱力学では偏微分を理解しておく必要があります(大したことはありませんが)。
材料力学や流体力学は数学的に難解な部分が多々出てきます(ただし、それらをすべて理解する必要は実用上ありません)。
上記内容を端的にまとめられているのが
“物理数学”という分野です。
簡単に言えば、物理計算に必要となる数学のエッセンスを抜き出してまとめたもの、と考えてもらえれば十分です。
以下に物理数学の分かりやすい参考書を紹介します。
最後に、公差設定においても確率的な概念が必要となります(これについては
公差の考え方を参照ください)。工程管理能力の検証にも確率統計の概念が必要となります。
また、ものつくりの過程で様々なデータ分析を行います。
その際、そのデータの妥当性(信頼性)を確率的に評価する必要があります(そのデータの信頼度はどの程度あるか?)。
さらに、ものづくりの過程で不具合が発生し、どうしてもその原因が特定できない場合は、統計学の力を借りて相関関係から何かしらの法則性を見出す方法をとることがあります。
また、
従って、確率統計の知識が必要になります。
以下に確率統計の分かりやすい参考書を紹介します。
ざっと見ただけでも、機械設計者は非常に幅広い知識を求められることが分かります。
これらすべてを学ばなくてはならないわけではありません。
必要に応じて取捨選択をすればよいのですが、少なくとも
“力学”と
“確率統計”だけはきっちり抑えておく必要がある、と考えます。