1.ばね
1.1.ばねの性質
“ばね”とは、
物体に力を加えると変形し、力を抜くと元に戻る性質(材料の弾性)を利用した機械要素部品です。
材料の弾性とは、物体にくわえた力をF、その時の変形量をxとしたとき、kを定数として次の関係が成り立つことを言います。
\[
F = k x
\]
このkをばね定数と呼び、この関係式をフックの法則と呼びます。
上記の関係からすると、ばねの荷重と変形は必ず比例(線形)関係にあるように思いますが、実際は形状を工夫する等によって非線形な特性を得ることもできます。
このばね荷重と変形の特性を荷重特性と呼びます。
以下に線形コイルばねの荷重特性と、さらばねの荷重特性を例示します。
図1.1-1 ばねの荷重特性(例)
また、ばねには次の保存則に従いエネルギーを蓄える能力を持っています。
- 力学的エネルギー保存則
- 運動エネルギーをばねに蓄える
- 熱力学的エネルギー保存則
- 変形エネルギーをばねに蓄える
1.2.ばねの用途
ばねの主な用途として次のようなものが挙げられます。
- 荷重特性による機械制御・計測
- エネルギーを蓄え動力を供給
- 振動や衝撃の吸収・緩和
1.3.ばねの種類
ばねには非常にたくさんの種類があります。
これらを分類する方法としては、材料、形状、用途など様々です。
ここでは、形状で分類されるばねの主な種類を記載します。
- コイルばね(円筒、円錐、たる、不等ピッチ)
- うずまきばね、竹の子ばね
- 重ね板バネ、薄板ばね
- さらばね、座金類(ばね座金、波型座金)
- トーションバー
- 空気ばね
さて、材料の弾性を利用するという点では、ただの“板”も“ねじ”もばねの一部と考えることができます
(実際はそういう分類はしませんが)。
ですので、あまり枠にとらわれず自由な発想をもって、自分達に必要な“ばね”が設計できれば楽しいかな~?と思います。
2.ばね設計概論
2.1.ばね設計の考え方
ばね設計では次の3点に着目する必要があります。
- 荷重特性による機械制御・計測
- エネルギーを蓄え動力を供給
- 振動や衝撃の吸収・緩和
ばねの性能は荷重特性(ばらつき含む)で決まるほか、ばねが持つ固有振動数も重要な性能の一つとなります。
また、ばねは上記性能を確保しながら、機械システムに組み込める形状、サイズでなければなりません。
当然ながらばねは変形しますので、動的挙動で干渉チェックをしなければなりません。
さらにばねは、上記2項を使用環境と設定された寿命範囲内で担保できるよう、強度的(へたり含む)、物性的、熱的、化学的(腐食等)観点で成立性を確認していかなければなりません。
その他、コスト、信頼性、製法なども考慮に入れて設計していく必要があります。
以下に、ばね設計の簡略フローを示します。
図2.1-1 ばね設計簡略フロー
2.2.ばねの要求性能
1.2項ばねの用途で示したものが、要求性能の主なものになります。
- 荷重特性による機械制御・計測
- エネルギーを蓄え動力を供給
- 振動や衝撃の吸収・緩和
物理的に見れば、荷重特性は力と変位の関係を表したものであり、エネルギーは荷重特性を変位で積分したものです。
\[
F = k x
\leftrightarrow
\int F dx = \int ( k x ) dx = \frac{1}{2} k x^2
\]
また、振動は荷重特性と振動する質点の運動方程式を解くことであり、衝撃吸収は質点の運動エネルギーをばねのポテンシャルエネルギーに変換するものです。
\[
m \frac{d^2x}{dt^2} = -k x
\leftrightarrow
\frac{1}{2} m v^2 = \frac{1}{2} k x^2
\]
以上から、結局のところ(1)~(3)は同じ内容を要求性能としていることがわかります。
そこで通常、ばねの設計、製造管理の観点から、荷重特性を要求性能として設定することになります。
ばねの荷重特性はその形状、つまりコイルばねやさらばね、板バネ等によって様々な計算式が与えられています。
これらの計算式は荷重特性だけでなく、発生応力についても計算できるようになっていますので、それらを利用することでばねの設計が可能となります。
ただし、すべてに対応できるわけではなく、特に非線形性を有しつつ特殊な形状となるばねの設計については、計算できない場合があります。
その場合は、材料力学あるいは連続体力学に基づいて計算式を自ら作るか、非線形構造CAEを用いて計算する必要があります。
さて、既に一般式として与えられている計算式については他サイトや様々な書籍、さらにはJISに掲載されていますので、本サイトではそちらに譲ることとします。
2.3.ばねの材料・製法
ここではばねの材料と製法について、設計上おさえておきたい要点についてみていきます。
(1)要求性能からの選択
ばねに使用する材料は様々ありますが、高弾性材料ほどばねには適していると言えるでしょう。
とは言え、用途に適した弾性係数の材料を選択することになります。
弾性係数は温度依存性がありますので、使用温度環境は十分注意しておく必要があります。
また、ばねは使用していくにつれ“へたり(=疲れ変形)”が生じ、変形に対する荷重が減少していきます。
これらのへたりを抑えるためにホットセッチングやクリープテンパー処理を行います。
ホットセッチング |
:高温下で使用応力以上の荷重をかけること |
クリープテンパー |
:常温でねじを締め付けておき、低温焼きなましをすること |
(2)強度からの選択
ばねの用途は様々ですが、主に動的に使用されることが多くなります。
そのため、疲労強度についてはかなり気を使わなければなりません。
疲労強度については、SN線図や耐久限度線図等を用いて評価することになります。
図2.3-1 疲労強度評価線図
これらの疲労強度を評価する線図を作るには、材料の引張り強さと疲れ強さが必要になります。
これらの数値をもとに材料を選択することになりますが、材料強度は温度依存性があるため、使用温度での強度を抑えておく必要があります。
また一般に鉄系材料は、材料が硬いほど高い強度を持ちますがもろいため、あまりばねには適しません。
よって、適度な靱性が必要となります。
高強度かつ適度な靱性を得るには適切な熱処理を施す必要があります。
これは結局のところ適切な金属組織形態得ることと同義です
(中心部50%以上マルテンサイトとするのが良い、と言われています)。
ただ、適度な靱性と高い強度に適した組織を得ることについては、残念ながら設計者がなかなか立ち入れるものではありません。
また、表面硬化処理(ショットピーニングなど)を施すことによって表面の圧縮残留応力をコントロールし、耐疲労性を向上させることもあります。
以上のように、熱処理や表面硬化処理による耐疲労性向上は、材料の文献値からとらえることはできません。
これらは通常ばねメーカーのノウハウになります。
よって、ぎりぎりの設計となる場合は、ばねメーカーとの相談が必要になります。
(3)使用環境からの選択
ばねは、高温での環境や、腐食雰囲気での環境、太陽光に曝される環境、真空環境など様々な場所で使用されます。
当然ながらその環境下で不具合が生じる材料を使うわけにはいきません。
- a)高温環境下
-
耐熱性、クリープ、酸化、青熱脆性など
耐熱性は、単純に材料の使用温度限界から決まります。
それ以上の高温環境では、材料強度低下ばかりか融点までいけば溶けてしまいます。
クリープによる永久変形では、疲れ限度を狭める原因となるため注意が必要です。
青熱脆性は約200~300℃の環境下で鉄をもろくしてしまう現象で、
ばねのような用途ではこのもろくなる現象は致命的といえるでしょう。
- b)腐食雰囲気
-
腐食、錆など
腐食、錆などの発生により、ばねは減肉するため、荷重特性や固有振動数に変化が生じます。
また減肉により発生応力は大きくなるため耐強度も低下します。
さらに、表面にざらつきが発生することから、ノッチ効果によって耐疲労性は格段に低下します。
- c)太陽光照射環境
-
耐光性、紫外線劣化など
これらは主に樹脂系材料(プラスチック、ゴム)等を硬化させてもろくしてしまいます。
樹脂材料で作ったばねは注意が必要です。
- d)真空環境
-
傷による凝着など
真空環境では金属表面の酸化膜が形成されにくいため、一度傷がついて圧着状態ができると金属間凝着が起こりやすく、ばねの性能が損なわれる危険性があります。
以上のように厳しい環境においては、例えば耐疲労性向上として、熱処理や表面硬化処理などによって表面ストレスを与えたことで腐食を促進させてしまう懸念がありますので、幅広い観点から材料選定が必要となります。
(4)経済性からの選択
欲しい特性、強度、耐環境性にマッチした材料が見つかったとしても、ほとんど市場に流通していなかったり、すこぶる高価な材料であった場合、手に入れることはできません。
また、一品ものとして作ることは可能だが、量産となると製造出来ない、といった場合も、製品開発においては致命的な欠陥になります。
以上いろいろ書きましたが、ばね用としてJISで規格化された材料があったり、一般に通常使用している材料というのがあります。
そこで以下のような流れで材料選択を考えることが、ばね設計においては効率的であろう、と思います。
まずはJISや一般材料からの選択を試みる |
↓ |
見つけられなければ、ばねメーカに相談 |
↓ |
それでも良いものがなければ新たな材料を模索する |
2.4.ばね設計お役立ちサイト
以下に、ばねを設計する際役に立つサイトを紹介します。
ご活用いただければ幸いです。
リンクのないものは、GoogleやYahoo!で検索すれば一番目に出てきます。
サイト |
コメント |
日本工業標準調査会(JISC)
|
こちらは、JISを閲覧することができます。
リンクに移動後、上から二つ目のBOXに“ばね”と入力すると、
ばねに関するJIS規格を閲覧することができます。 |
日本ばね学会
http://www.jsse-web.jp/shuppan/shuppan.html
|
ばね設計以外にも、
実験、製造、品質に関する技術者の心得など豊富な情報が掲載されています。 |
東海ばね
http://www.tokaibane.com/index.html
|
こちらは、JISを閲覧することができます。
リンクに移動後、上から二つ目のBOXに“ばね”と入力すると、
ばねに関するJIS規格を閲覧することができます。 |
正直上記サイトがあるので、我々のサイトでばねについて書く必要があるのか?
と思いましたが、設計者視点で簡単にまとめたものを、との思いから書きました。
よって、我々のサイトの情報不足は否めないため、
上記サイトでその不足分を補っていただければと思います(補って余りある情報量ですが...)。