a)極性ベクトルの具体例
極性ベクトルは空間に固定されたベクトルであるから、最もイメージしやすいのは位置ベクトルであろう。
例えば大阪 - 東京を結んだベクトルがあるとする。
座標系は、右手、左手関係なく、地球上に無数に設定できるが、大阪 - 東京を結んだベクトル自体は何も変わらない。
なぜなら、大阪、東京の地点は座標系に関係なく存在するから...。
このように、空間に対して向きが決まるベクトル、位置ベクトル、速度ベクトル、力ベクトルなどが極性ベクトルにあてはまる。
b)軸性ベクトルの具体例
では、座標系に固定された軸性ベクトルっていったい・・・?
ということで、まずは角運動量について見てみよう(なんで角運動量かは後でわかる)。
角運動量\( \bf{L} \)は位置ベクトル\( \bf{r} \)と運動量ベクトル\( \bf{p} \)の外積によって決まる。
\[
\bf{L} = \bf{r} \times \bf{p} = m \bf{r} \times \bf{v}
\]
結局は\( \bf{r} \)と\( \bf{v} \)の外積なので、これを成分計算する。
まずは右手系O-XYZの成分計算を行う。
このとき、
\( \bf{e_i} \times \bf{e_i} = \bf{o} \)、
\( \bf{e_x} \times \bf{e_y} = \bf{e_z} \)、
\( \bf{e_y} \times \bf{e_x} = -\bf{e_z} \cdots \)を考慮すると
\[
\begin{eqnarray}
\bf{r} \times \bf{p}
& = & ( x \bf{e_x} + y \bf{e_y} + z \bf{e_z} ) \times
( v_x \bf{e_x} + v_y \bf{e_y} + v_z \bf{e_z})
\\
& = & (y v_z - z v_y)\bf{e_x} + (z v_x - x v_x)\bf{e_y} + (x v_y - y v_x)\bf{e_z}
\end{eqnarray}
\]
次に左手系O-X'Y'Z'の成分計算を行う。
\[
\begin{eqnarray}
\bf{r} \times \bf{p}
& = & ( x \bf{e_x'} + y \bf{e_y'} + z \bf{e_z'} ) \times
( v_x \bf{e_x'} + v_y \bf{e_y'} + v_z \bf{e_z'})
\\
\\
& = & (y v_z - z v_y)\bf{e_x'} + (z v_x - x v_x)\bf{e_y'} + (x v_y - y v_x)\bf{e_z'}
\end{eqnarray}
\]
両式を比べると成分は一致するが、軸単位ベクトルは反転するので、
\[
\bf{r'} \times \bf{v'} = \bf{r} \times \bf{v}
\\
\\
\rightarrow \bf{L'} = -\bf{L}
\]
つまり角運動量ベクトルは軸性ベクトルであり、座標系の反転に伴い、空間に対して反転する。
このことは一体何を意味するのか?
角運動量は回転運動を表すためのものである。
回転には時計周り、反時計回りといった向きが存在する。
ただ、同じ回転でも見る方向によっては、時計回りにも反時計回りにもなってしまう。
それでは非常に都合が悪い。
ということで「右ねじを回転させるとねじが進む方向」という形で定義すれば、回転方向は一意に決まる
(回転と見る方向を同時に決める)。
ベクトルの外積の向きは、この右ねじの方向(右手系)によって決められている。
右手系O-XYZの角運動量ベクトル
Lに対する回転方向を図示すると、次のようになる。
反転座標系O-X'Y'Z'は左手系なので、角運動量ベクトル
L'の向きは、右ねじではなく“左ねじ”に従うことになる。
つまり、座標系の反転は同じ回転について見る方向が変わっただけであり、軸性ベクトルで決められる「回転の向きは空間に対し不変」である。
このように、回転の向きが空間に固定される角運動量ベクトル、角速度ベクトル、モーメントベクトル等が軸性ベクトルにあてはまる。