コラム

軸性ベクトルと極性ベクトル

作成日:20200709  テーマ1:科学  テーマ2:数学  テーマ3:ベクトル

(1)座標系の反転

三次元座標系は、右手系と左手系の二種類がある。

右手系と左手系

これらは、原点Oを基準にどう回転させても一致しない(鏡像関係)。 ただし、軸ごとに符号を反転させれば一致させられる(上図の場合、y軸の符号を反転)。
ここで、軸反転させるとどうなるかを見てみよう。

右手系と左手系


(2)軸性ベクトルと極性ベクトルの定義

軸性ベクトルと極性ベクトルは、この座標系の反転に対する振る舞いによって、次のように定義される。

  • 軸性ベクトル:反転に対してベクトル成分の符号は反転しない(擬ベクトルともいう)
  • 極性ベクトル:反転に対してベクトル成分の符号も反転する

軸性ベクトルと極性ベクトル
次に、極性ベクトルと軸性ベクトルの特徴についてみていくことにする。

(3)極性ベクトルの特徴

まずは極性ベクトルについて、軸単位ベクトル(正規直交基底ベクトル)を \((\bf{e_x}, \bf{e_y}, \bf{e_z})\) とする座標系O-XYZに対し、3つの軸をすべて符号反転した座標系O-X'Y'Z'のそれは
\[ (\bf{e_x'}, \bf{e_y'}, \bf{e_z'}) = (-\bf{e_x}, -\bf{e_y}, -\bf{e_z}) \]
になる。
O-XYZ系から見た極性ベクトルを\(\bf{p}\)、O-X'Y'Z'系から見た極性ベクトルを\(\bf{p'}\)で表すと、極性ベクトルの定義から、それぞれの成分は次のように表せる。

\[ \begin{eqnarray} & \bf{p} &= (x, y, z)^t \\ & \bf{p'} &= (x', y', z')^t = (-x, -y, -z)^t \end{eqnarray} \]
このとき次の計算によって、を\(\bf{p} = \bf{p'}\)の関係が得られる。
\[ \begin{eqnarray} \bf{p'} & = & x' \bf{e_x'} + y' \bf{e_y'} + z'\bf{e_z'} \\ & = & (-x)(-\bf{e_x}) + (-y)(-\bf{e_y}) + (-z)(-\bf{e_z}) \\ & = & x\bf{e_x} + y\bf{e_y} + z\bf{e_z}z \\ & = & \bf{p} \end{eqnarray} \]
これは、極性ベクトルは空間に固定されたものであって、座標系の反転に対して不変であることを意味する (上図a)を参照)。

(4)軸性ベクトルの特徴

次に軸性ベクトルについて、さきほどの座標系O-XYZから見た軸性ベクトル\( \bf{a} \)と、3つの軸をすべて符号反転した座標系O-X'Y'Z'のから見た軸性ベクトル\( \bf{a'} \)で表すと、軸性ベクトルの定義から、それぞれの成分は次のように表せる。
\[ \begin{eqnarray} & \bf{a} &= (x, y, z)^t \\ & \bf{a'} &= (x', y', z')^t = (x, y, z)^t \end{eqnarray} \]
このとき次の計算によって、を\(\bf{a} = -\bf{a'}\)の関係が得られる。
\[ \begin{eqnarray} \bf{a'} & = & x' \bf{e_x'} + y' \bf{e_y'} + z'\bf{e_z'} \\ & = & x(-\bf{e_x}) + y(-\bf{e_y}) + z(-\bf{e_z}) \\ & = & -\bf{a} \end{eqnarray} \]
これは、軸性ベクトルは座標系に固定されたものであって、座標系の反転に伴い空間に対して反転することを意味する(上図b)を参照)。

(5)軸性ベクトルと極性ベクトルの具体例

(3)(4)の結論は、定義から当たり前の結果が得られただけなので、ここでは極性ベクトルと軸性ベクトル、それぞれの具体的な例について見ていくことにする。

a)極性ベクトルの具体例

極性ベクトルは空間に固定されたベクトルであるから、最もイメージしやすいのは位置ベクトルであろう。
例えば大阪 - 東京を結んだベクトルがあるとする。 座標系は、右手、左手関係なく、地球上に無数に設定できるが、大阪 - 東京を結んだベクトル自体は何も変わらない。 なぜなら、大阪、東京の地点は座標系に関係なく存在するから...。

Series:一次配列

このように、空間に対して向きが決まるベクトル、位置ベクトル、速度ベクトル、力ベクトルなどが極性ベクトルにあてはまる。

b)軸性ベクトルの具体例

では、座標系に固定された軸性ベクトルっていったい・・・?
ということで、まずは角運動量について見てみよう(なんで角運動量かは後でわかる)。 角運動量\( \bf{L} \)は位置ベクトル\( \bf{r} \)と運動量ベクトル\( \bf{p} \)の外積によって決まる。
\[ \bf{L} = \bf{r} \times \bf{p} = m \bf{r} \times \bf{v} \]
結局は\( \bf{r} \)と\( \bf{v} \)の外積なので、これを成分計算する。
まずは右手系O-XYZの成分計算を行う。 このとき、 \( \bf{e_i} \times \bf{e_i} = \bf{o} \)、 \( \bf{e_x} \times \bf{e_y} = \bf{e_z} \)、 \( \bf{e_y} \times \bf{e_x} = -\bf{e_z} \cdots \)を考慮すると
\[ \begin{eqnarray} \bf{r} \times \bf{p} & = & ( x \bf{e_x} + y \bf{e_y} + z \bf{e_z} ) \times ( v_x \bf{e_x} + v_y \bf{e_y} + v_z \bf{e_z}) \\ & = & (y v_z - z v_y)\bf{e_x} + (z v_x - x v_x)\bf{e_y} + (x v_y - y v_x)\bf{e_z} \end{eqnarray} \]
次に左手系O-X'Y'Z'の成分計算を行う。
\[ \begin{eqnarray} \bf{r} \times \bf{p} & = & ( x \bf{e_x'} + y \bf{e_y'} + z \bf{e_z'} ) \times ( v_x \bf{e_x'} + v_y \bf{e_y'} + v_z \bf{e_z'}) \\ \\ & = & (y v_z - z v_y)\bf{e_x'} + (z v_x - x v_x)\bf{e_y'} + (x v_y - y v_x)\bf{e_z'} \end{eqnarray} \]
両式を比べると成分は一致するが、軸単位ベクトルは反転するので、
\[ \bf{r'} \times \bf{v'} = \bf{r} \times \bf{v} \\ \\ \rightarrow \bf{L'} = -\bf{L} \]
つまり角運動量ベクトルは軸性ベクトルであり、座標系の反転に伴い、空間に対して反転する。
回転

このことは一体何を意味するのか?

角運動量は回転運動を表すためのものである。 回転には時計周り、反時計回りといった向きが存在する。

回転

ただ、同じ回転でも見る方向によっては、時計回りにも反時計回りにもなってしまう。

回転

それでは非常に都合が悪い。 ということで「右ねじを回転させるとねじが進む方向」という形で定義すれば、回転方向は一意に決まる (回転と見る方向を同時に決める)。

回転

ベクトルの外積の向きは、この右ねじの方向(右手系)によって決められている。

回転

右手系O-XYZの角運動量ベクトルLに対する回転方向を図示すると、次のようになる。

回転

反転座標系O-X'Y'Z'は左手系なので、角運動量ベクトルL'の向きは、右ねじではなく“左ねじ”に従うことになる。

回転

つまり、座標系の反転は同じ回転について見る方向が変わっただけであり、軸性ベクトルで決められる「回転の向きは空間に対し不変」である。
このように、回転の向きが空間に固定される角運動量ベクトル、角速度ベクトル、モーメントベクトル等が軸性ベクトルにあてはまる。

まとめると
  • 極性ベクトルで決められるベクトルの向きは、座標の反転に影響されず空間に固定される
  • 軸性ベクトルで決められる回転の向きは、座標の反転に影響されず空間に固定される

軸性ベクトルと極性ベクトル

(6)演算の組み合わせ

先ほどの話に戻ると、角運動量\( \bf{L} \)は軸性ベクトル、位置ベクトル\( \bf{r} \)と速度ベクトル\( \bf{v} \)は極性ベクトルである。 ということは、極性ベクトル同士の掛け算は軸性ベクトルになっている。
となると、軸性ベクトルと極性ベクトルの外積、内積についてどのような結果が得られるであろうか?
ここでは答えだけを載せておく。

<外積>

  • 軸性ベクトル×軸性ベクトル = 軸性ベクトル
  • 軸性ベクトル×極性ベクトル = 極性ベクトル
  • 極性ベクトル×軸性ベクトル = 極性ベクトル
  • 極性ベクトル×極性ベクトル = 軸性ベクトル

<内積>

  • 軸性ベクトル・軸性ベクトル = スカラー
  • 軸性ベクトル・極性ベクトル = 擬スカラー
  • 極性ベクトル・軸性ベクトル = スカラー
  • 極性ベクトル・極性ベクトル = 擬スカラー

参考資料:http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/2019_112_04/112-4_255.pdf

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