2.集積公差(累積公差)

ここでは話を簡単にするため、次のような事例をもとに公差の積み上げ方法について考えていきます。


<事例>

2つの棒をつなげたとき、つなげた棒全体の長さにどのような公差を与えるのが適切か?


図2-1 集積公差の例
図2-1 集積公差の例

2.1.単純積算と二乗和

公差の積み上げ方法として、一般に次の2通りが行われています。


  • (1)単純積算(L.S.=Linear Sum)
  • (2)二乗和 (R.S.S.=Root Sum Square)

単純積算と二乗和の違いは次の2点になります。


  • 積み上げ公差の大きさ
  • 積み上げ公差を満足する確率

(1)公差の大小関係については、単純積算の方が二乗和よりも大きくなります。


公差の大小関係

次に、(2)公差の確率について見ていきます。

仮に公差がσ管理であれば、Δx=σx、Δy=σy(標準偏差)になります。

つまり、それぞれの棒の長さが公差を満足(逸脱)する確率は68%(32%)になります。


図2.1-1 公差設定範囲の確率
図2.1-1 公差設定範囲の確率

そこで、それぞれの積み上げ公差の逸脱確率を求めます。


単純積算(L.S.)による公差ΔzL.S.を逸脱する確率は、 0.322×100=10.24%になります。 仮に棒の本数をn本とした場合、公差ΔzL.S.を逸脱する確率は (0.32n×100)となり、 本数が増えれば増えるほど公差を逸脱する確率が飛躍的に減少することがわかります。


それに対し二乗和(R.S.S.)による公差ΔzR.S.S.を逸脱する確率は、 “誤差伝播の法則”により32%のままになります。 仮に棒の本数をn本にしてもこの確率はそのまま32%を維持します。 なお、誤差伝播の法則は次の 2.2項で説明します。


このように、公差をσ管理とした場合の公差逸脱確率の関係は、

単純積算(10.24%)<二乗和(32%)

になり、単純積算と二乗和では確率的に大きな違いが生まれます。


以上により、“公差の大小”、“公差逸脱リスクの大小” を考慮して公差設定方法を選択する必要があります。


例えば、集積公差として単純積算(L.S.)を選ぶ場合は、 空間上の不具合(干渉等)を極力回避する、という目的で選ばれることが多いと思います。 ただし、その分集積公差は大きくなるため、充密な設計は困難になり、 昨今の製品小型軽量化に対する要望を満足できなくなります。 また、単純積算といえど「不具合発生確率は0ではない」という点に意識を払うべきでしょう。

それに対し二乗和(R.S.S.)は単純積算(L.S.)よりも公差範囲を小さく設定できるので、 小型軽量化に適しています。 また、部品レベルの公差も単純積算(L.S.)より緩めることができるため経済的です。 しかしながら、不具合発生率という点では単純積算(L.S.)にはかないません。


以上から、設計者は「公差逸脱の確率をコントロールすることで、 品質と経済性の両立=製品最適化設計が可能」になることがわかります。


2.2.二乗和の根拠(誤差伝播の証明)

前項で個々の部品の公差をσ管理としたとき、二乗和による集積公差もσ管理となること、 さらに、この理由は誤差伝播の法則に従うため、と述べました。

そこで、本項では二乗和の根拠となる“誤差伝播の法則” について見ていきます。


この誤差伝播の法則はσ管理だけでなく、3σ管理や4.56σ管理など、 任意の係数(正の実数)でも成り立ちますし、2変数でなくても成り立ちます。


ここでも図2-1の例を用いて、公差σ管理、2変数における誤差伝播の法則を証明します。

はじめに計算を簡単にするため、棒の基準値が0となるように変数変換を行います (図2.2-1参照)。 この変数変換では基準値のみが変わり、分布の形は変わりません (単純な平行移動:図2.2-2参照)。


図2.2-1 棒の長さの変数変換
図2.2-1 棒の長さの変数変換
図2.2-2 分布曲線の変数変換
図2.2-2 分布曲線の変数変換

棒1、棒2がそれぞれ長さx、yとなる確率は正規分布の確率密度関数P(x)を用いて次のように表せます。


確率

棒1と棒2の長さはそれぞれ独立に決まりますので、 棒1がxで棒2がyとなる組み合わせの確率は、次のようになります。


組み合わせ確率

今証明したいのは、棒全体の長さ(x+y)を確率変数として正規分布が作れるかどうか? ということです。そこでeの乗数(expの()内)に(x+y)を作って変形してみると、 次のようになります。


関数の変換1

これをP(x,y)に代入すると、次のようにw,zの関数として書き換えられます。

変数w(=x+y)が今まさに棒全体の長さを表す確率変数であるため、 今後は変数wに着目していきます。


関数の変換2

ここで、全事象の発生確率は必ず1であることに注意します。


規格化条件

今、(x,y)から(w,z)に変数変換していることから、P’(w,z)も上式を満たすことになりますが、 変数変換の条件を追記しなければなりません。 2積分変数の変換ゆえヤコビアンを適用して次のようになります。


規格化条件+変数変換

ここで、変数zに着目します。

zもwも(x,y)の関数です。そこでwをある一つの値に固定した場合(w=W)を考えます。

このときw=Wとする(x,y)の組は無数に存在します。 その無数の(x,y)の組からzを決めようとしても、zは任意の実数をとってしまいます。 またこれは逆のことも言え、z=Zとする(x,y)の組は無数に存在するため、 その組によってwを決めようとしてもwは任意の実数をとってしまいます。

結局のところ、変数zとwには相関関係がない、言い換えるとzとwは独立である、 と考えてよいことになります。

今着目しているのは、変数wでありzは正直どうでもよい変数です。

そこでzを消去するには、P(w,z)をzについて-∞から+∞で積分すれば、 zを含む項は定数化され、P(w,z)をP(w)の形にすることが可能になります。


関数の変換3

関数P(w)は、変数w、基準値0、標準偏差σwとする正規分布を表しています。


棒全体の長さを表すパラメータ

これはまさに、棒全体の長さの標準偏差がそれぞれの棒の標準偏差の二乗和によって決まることを表しています。 つまり、標準偏差σwが棒全体の公差(つまりΔz)を表していることになります。

以上で、公差σ管理、2変数での誤差伝播の法則について証明が終わりました。


またこの関係、つまり誤差伝播は確率変数を増やしても成り立ちます (証明は厳密ではなく、かなり簡略化します)。


確率関数

この式を分散の加法性と呼びます。


次に、σの係数となる任意の正の実数αに対する確率の伝播について見ていきます。

それぞれの棒の長さをασ管理としたとき、棒1、棒2の公差は


公差の設定

となります。

そこで、棒全体の公差Δzをασwとおいてみると、以下の関係が得られます。


公差の設定

これは結局のところ二乗和の計算そのものです。

つまり二乗和で公差設定する場合、個々の公差もそれを集積した公差もασで管理されることになります。


以上で誤差伝播の証明は終わりです。

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