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2.転がり軸受の設計手順

転がり軸受の設計手順を図2-1に示します。
転がり軸受設計フロー
図2-1 転がり軸受設計フロー

2.1.使用条件洗い出し

転がり軸受の使用条件を洗い出すことで、 軸受選択から軸・ハウジング設計へとつなげていきます。

(1)レイアウト制約

軸受を配置するにあたっての空間的な制約を意味します。 これはおもに、軸の太さやハウジングの軸受に対する許容空間範囲などによって決まります。

(2)軸受に作用する荷重の方向・大きさ・許容回転数

軸受にはラジアル方向やアキシアル方向、あるいはその複合荷重が作用します。 作用する荷重の方向や大きさ、変動の仕方によって、使用できる軸受の形式は変わりますので、 荷重計算は軸受選定の中でも非常に重要な位置を占めます。
荷重方向
図2.1-1 荷重方向

(3)メンテナンス性

転がり軸受は、転がり摩擦を生じながら回転しますので、給油やグリス塗布等に気を遣う必要があります。 極力給油やグリス塗布に気を使わなくて良い状態(強制給油や油雰囲気)にするか、 必要なら給油やグリス塗布しやすいようにする必要があります。 また、転がり軸受は消耗品ですので、付け替え易いようにするのが良いでしょう。

(4)市場流通性

カタログ品の中でも特に流通性の高いものを選ぶことが良いと考えられます。 流通性の高さは、入手のしやすさ、安価、高品質につながります。

2.2.転がり軸受形式選定

転がり軸受は、図1.1-1に示した通り、数多くの種類が存在します。 これらの中から適当なものを選択しなければなりませんが、これだけ多くの種類があると何を選べばよいかわからなくなります。 そこで、単列深溝玉軸受を基準に、次のような手順で検討することを提案します。
軸受選定フロー
図2.2-1 軸受選定フロー(参考)
転がり軸受は種類が多いので、まずは適用形式を絞ったうえで形式選定検討を行い、徐々に検討範囲を広げていく方法が良いと考えられます。

2.3.軸受材質選定

軸受材質の選定は、軸受を使用する温度や雰囲気環境に依存します。 表2.3-1に、軸受に使用される主な材料特性を記しましたので、こちらを参考に使用条件に合わせて選定してください。
表2.3-1 軸受材料特性
材質 硬度 靭性 耐食性 高温特性 高速回転 備考
高炭素クロム
軸受鋼
SUJ HRC57~66 最も一般的に使用されている材料。
微細な球状化炭化物が均一に分布したマルテンサイト組織のため、 組織間の亀裂破壊抑止効果や、摺動抵抗低減効果が得られる。
はだ焼き鋼
(浸炭鋼)
SCr
SCM
SNCM
HRC60程度
内部硬度:HRC30~45
表面硬化により、内部亀裂の進行が軸受鋼よりも遅い。
浸炭深さは、転動疲労強度向上のため1~3mmと深め。
ステンレス鋼 SUS440C
SUS630
HRC60(440)
HRC40(630)
△(440)~
○(630)
△(440)~
○(630)
SUS440Cはマルテンサイト系ゆえ硬度は高いが耐食性が落ちる。 SUS630は析出硬化性ゆえ硬度は落ちるが耐食性良好。
高速度鋼 SKH,M50 HRC60~65 × 使用温度500℃程度までなら硬度低下が顕著に見られない。
高温軸受
材料
ステライト
ハステロイ
HRC45~60
(ステライト)
HRC30
(ハステロイ)
- ステライト:Co基超合金。
ハステロイ:Ni基超合金。
使用温度600℃以上で高速度鋼を上回る硬度特性を有する。
セラミックス 窒化珪素
(Si3N4)
HV1300以上 × セラミックスゆえ化学的に安定。 比重が軽く超高速回転向き。

2.4.軸受サイズ選定

軸受には、状況に応じてラジアル方向、アキシアル方向またはその両方の荷重が負荷されます。 その負荷に対して十分な強度を有する軸受の選定と、軸およびハウジング設計が必要になります。 ここでは、軸受選定に必要となる強度上の考え方を説明します。
転がり軸受には、“基本定格荷重”が規定されています。 定格荷重とは、転がり軸受のある使用条件における許容荷重(=負荷容量)を表します。 この基本定格荷重は次の2種類に分類されます。

(1)基本動定格荷重

転がり軸受の疲労寿命(100万回転)を決定する荷重。

(2)基本静定格荷重

転がり軸受の接触面における一発破壊(実際は塑性変形)を評価する荷重。
基本動定格荷重は疲労強度に対する保証値ですので、転がり軸受の使用寿命を決定する要因になります。 そこで、転がり軸受の寿命については次の定義があります。

(3)基本定格寿命

複数の転がり軸受を一定条件下で回転させた時に、90%以上の確率で壊れない、100万回転(106回転)単位の寿命

2.4.1.基本定格寿命

転がり軸受の寿命とは、軸受の軌道輪、軌道盤または転動体のいずれかに材料の疲労破壊が現れるまでの総回転数をいいます。 この考え方をもとに、基本定格寿命は前述のように定義されています。 この値を算出するには、基本動定格荷重と実使用荷重の算出が必要になります。 その関係式については(次項(2.4-1)式)で示します。
軸受のサイズ選定は、寿命の大きさによって行います。
寿命が短ければ頻繁に交換が必要になりますし、寿命が長くてもあまりに大きい軸受を使用していれば、 経済的ではなくなりますし、摺動抵抗も大きくなります。 使用する製品の寿命やメンテナンス頻度などを考慮の上、軸受の寿命を決めていきます。

2.4.2.基本動定格荷重

基本動定格荷重は、「ある一定荷重条件化の軸受が100万回転したときに、転動面でフレーキング等の疲れ破壊を生じる確率が10%以下である値」 として定義されています。 言い換えると「軸受が100万回転の基本定格寿命に理論上耐えられるような一定の荷重」となります。
基本動定格荷重では、“一定条件下”という条件が付いていますが、実際には荷重の大きさや方向が変動し、一定条件になることはめったにありません。 そのため、実使用条件(変動条件)を一定条件に等価して考え、それを基本動定格荷重と比較することにしています。 その荷重を“動等価荷重”と呼びます。
動等価荷重(P)
実際の転がり軸受に負荷される荷重を、内輪を回転、外輪を静止させた条件で、100万回転の疲れ寿命(生存確率90%以上)を満足するような、方向と大きさが一定の荷重におきかえたもの。
  • ラジアル軸受 → 軸受中心をとおるラジアル荷重
  • スラスト軸受 → 軸受中心軸に一致した方向のアキシアル荷重
動等価荷重の考え方
図2.4.2-1 動等価荷重の考え方
基本定格寿命L10、基本動定格荷重C、動等価荷重Pの間には次の基本式が成り立ちます。
\[ 玉軸受:L_{10} = \displaystyle( \frac{P}{C} )^2 \\ ころ軸受:L_{10} = \displaystyle( \frac{P}{C} )^{10/3} \]
この基本式に対して、温度補正、使用条件係数や軸受特性係数などの寿命補正係数を乗じて寿命算出を行っていきます。
なお、基本定格寿命、基本動定格荷重、動等価荷重の計算方法は、ベアリングに関する書籍(参考文献)、 または下記ベアリング・メーカのホームページやカタログに記載されている内容を参照ください。 その際、補正係数等については使用する転がり軸受のメーカ値に従うようにしてください。

2.4.3.基本静定格荷重

基本静定格荷重は、静的荷重下での転動体と軌道輪のヘルツ接触による永久変形から決められています。 基本静定格荷重を検討する必要があるケースに、次のようなものが挙げられます。
  • (準)静的な状態で軸受に荷重が作用している
  • 通常運転時の負荷以外に、例えば衝撃のような大きな荷重を受ける
基本静定格荷重も、基本動定格荷重同様ある条件設定において求められた荷重値になりますが、この条件が実使用条件と一致することはほとんどありません。 よって、実使用条件下の荷重を、基本静定格荷重と比較できるような等価荷重を設定する必要があります。 それを静等価荷重と呼びます。
静等価荷重(Po)
実際の荷重条件下で生じる軸受の最大接触応力が、転動体と軌道輪との接触部中央に生じると仮定したときの静荷重。
  • ラジアル軸受 → 軸受中心をとおるラジアル荷重
  • スラスト軸受 → 軸受中心軸に一致した方向のアキシアル荷重
なお、基本静定格荷重、静等価荷重の計算方法は、ベアリングに関する書籍(参考文献)、 または下記ベアリング・メーカのホームページやカタログに記載されている内容を参照ください。 その際、補正係数等については使用する転がり軸受のメーカ値に従うようにしてください。

2.4.4.許容回転数

転がり軸受には、使用できる上限回転数(rev/min)があります。 これは、回転速度が大きくなるにつれて軸受内部に摩擦熱が発生し、限界を超えると焼付きなどのトラブルが発生するためです。 当然ながら回転速度の上限値は、潤滑状態によって異なります。 そのため、転がり軸受のカタログには、グリース潤滑と油潤滑の二通りの許容回転数が規定されています。 許容回転数は、軸受に負荷される荷重条件によって変化しますので、それに対する補正係数が設定されています。 使用条件にあわせて各メーカ指定の補正係数を乗じた値で許容回転数を設定してください。 また、潤滑/冷却を十分に行い、軸受を高精度かつ内部すきまを大きくし、高回転に適した保持器を有する軸受を選択することで、カタログで規定されている許容回転数以上の高速回転できます。この場合にも補正係数が設定されていますので、 各メーカ指定の補正係数を乗じた上で許容回転数を決定してください。
なお、基本静定格荷重、静等価荷重の計算方法は、ベアリングに関する書籍(参考文献)、 または下記ベアリング・メーカのホームページやカタログに記載されている内容を参照ください。 その際、補正係数等については使用する転がり軸受のメーカ値に従うようにしてください。

参考文献